循環式温泉入浴施設を発生源としたレジオネラ症集団感染事例−宮崎県

(Vol.24 p 29-31)

2002(平成14)年7月、 宮崎県日向市において、 循環式温泉入浴施設を発生源としたレジオネラ症集団感染が発生したのでその概要を報告する。

経過と概要:2002年7月18日、 3名の患者がレジオネラ症様の症状を呈し、 かつ3名とも同じ温泉施設を利用していたという連絡が、 宮崎県日向市の医療機関より管轄保健所にあった。翌19日、 保健所は同温泉施設に立ち入り、 調査を開始するとともに、 衛生環境研究所へ患者の検体および施設の温泉水等を搬入した。衛生環境研究所では直ちに検査を開始し、 7月25日に患者喀痰および浴槽水から同一血清型のレジオネラ[Legionella pneumophila 血清群(SG)1]を検出した。この間レジオネラ症疑い患者の発生報告が増え続けたため、 保健所は施設に対し数度の営業自粛要請を行った。さらに7月30日、 患者喀痰と温泉水から分離されたそれぞれのL. pneumophila SG1について、 パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法による遺伝子解析を実施した結果、 PFGE型が一致し、 これらの菌が同一起源のものと考えられたことより、 保健所は、 本施設をレジオネラ集団感染の原因施設と判断し、 施設に対し60日間の営業停止を命令した。その後、 営業停止処分の再延長を行い、 当施設は現在も休業中である。

本事例の概要を次に示す。医療機関から保健所に報告のあったレジオネラ症患者および疑い患者(以下「発症者」とする。)は、 2002年10月27日現在295名であり、 うち7名が死亡した。発症者のうち、 レジオネラ症検査(後述)の結果、 現在34名がレジオネラ症と診断が確定している。発症者295名では、 男性54%と男女で差がほとんどなかったが、 確定患者34名については男性が71%であった。発症者の症状は、 発熱、 咳が主で、 43%に胸部レントゲン検査で何らかの胸部異常影が認められた。また発症者は6月24日〜8月15日の間に発症が見られたが、 90%は7月7日〜31日に発症した。潜伏期は1〜16日に集中し、 ピークは5〜7日であった。なお、 原因となった施設は、 宮崎県日向市にある循環式温泉入浴施設で、 2002年6月20日のプレオープンから7月23日まで営業しており、 19,778人が利用していた(営業日数22日、 1日平均約900人)。

検査方法および検査結果:レジオネラ症診断のための患者の検査は、 衛生環境研究所および民間検査施設で実施した。衛生環境研究所では、 入院患者を中心に95名について、 喀痰培養(24名)、 尿中抗原検査(75名、 Biotest キット使用)、 血清抗体価測定(66名、 マイクロプレート凝集法)を実施した。その結果、 培養検査で3名からL. pneumophila SG1 が分離され、 尿中抗原検査で12名が陽性、 血清抗体価測定で5名が陽性となり、 合計20名がレジオネラ症と確定診断された。他に民間検査機関で確定された14名と合わせ本事例での確定患者は10月27日現在34名となっている(表1)。

施設のレジオネラ属菌検査は、 事例探知翌日の7月19日に採取された温泉浴槽水、 およびその後に採取された施設のふきとり、 濾過装置の濾材、 源泉など53検体について実施した。またレジオネラ属菌の宿主となるアメーバの調査も国立感染症研究所によって実施された。主な結果を表2に示す。レジオネラ属菌は、 7月19日に採水した浴槽水のすべてから検出され、 特に2つの露天風呂の浴槽水からは、 1,500,000cfu/100mlという大量のレジオネラ属菌が検出された。なお、 源泉については7月31日および8月16日に採取し検査したが、 検出されなかった。また6基の濾過装置のうち5基の濾材からレジオネラ属菌が検出された。検出されたレジオネラ属菌は浴槽水、 濾材ともL. pneumophila SG1、 SG8、 L. dumoffii 等であった。また宿主アメーバは濾過装置R4、 R5の濾材から大量に検出され、 この系統の濾過槽および関連する浴槽でのレジオネラ属菌濃厚汚染をうかがわせる結果となった。

また患者喀痰の培養検査で4名から検出されたL. pneumophila SG1(1名は民間検査施設で分離されたもの)と、 浴槽水から分離されたL. pneumophila SG1について、 その由来の同一性を調べるためPFGE法による遺伝子解析を行ったところ、 PFGE型が一致し、 これらの菌は同一起源であると推定された()。このことより、 本事例は当入浴施設が原因となった感染であると結論した。

発生原因の究明と対策:宮崎県ではこのような事件が発生した原因を究明するため、 レジオネラ症対策本部およびレジオネラ属菌汚染原因究明対策委員会を設置した。これまでの検査結果および施設立ち入り調査結果から、 発生の原因として、 現時点では、 (1)源泉を溜めるタンクの清掃、 消毒などの衛生管理が不十分であったこと、 (2)浴槽水の消毒に必要な残留塩素濃度が維持できていなかったこと、 (3)浴槽の水位を満水状態としなかったため、 湯水の入れ替えが不十分であったこと、 (4)濾過装置の逆洗浄時間の設定が不十分で、 濾過槽内の汚れの排出が行われず、 宿主アメーバやレジオネラ属菌の増殖を許してしまったこと、 などが挙げられる。また今後の再発防止のため、 本施設の改善はもちろん、 県内の同様な施設についても衛生管理指導を実施している。

最後に、 今回の事例発生にあたり、 全国の地方衛生研究所および関係機関の皆様から多大な助言および援助をいただいたことを深謝いたします。

宮崎県衛生環境研究所
河野喜美子 東 美香 齋藤信弘 鈴木 泉
宮崎県日向保健所
宮崎県福祉保健部
国立感染症研究所・細菌第一部
倉 文明 前川純子 渡辺治雄
国立感染症研究所・寄生動物部
八木田健司 遠藤卓郎

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