温泉が感染源と推定されたレジオネラ肺炎−山形県

(Vol.24 p 32-33)

2002(平成14)年7月下旬〜8月下旬に山形県村山地方において、 温泉が感染源と推定された3人のレジオネラ肺炎患者が確認されたのでその概要を報告する。

症例1:50代男性、 7月25日発病。重症肺炎、 体温40.0℃、 血圧低下、 循環不全などのショック症状が認められた。基礎疾患として糖尿病があり、 大酒家、 多量喫煙者であった。レジオネラ肺炎が疑われ、 7月31日(7病日)に尿、 喀痰、 血清を採取、 当所に検査依頼された。レジオネラ尿中抗原陽性(Biotest社 Legionella Urin Antigen EIA)、 喀痰を検体としmip 遺伝子を標的としたnested PCR陽性、 喀痰の培養で血清群(SG)1のLegionella pneumophila が分離された。血清抗体(マイクロプレート凝集反応)は未上昇であったが、 33病日の血清でSG1に対する抗体価の上昇(640倍)が確認された。患者は近隣のA温泉公衆浴場を頻回利用していた。感染源調査のため、 温泉水の検査を行ったところL. pneumophila が160cfu/100ml検出され、 血清群はSG1であった。患者分離株と温泉分離株のDNAの比較をパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)(Sfi I)で行ったところ、 同一のパターンを示し、 A温泉公衆浴場が感染源であると推定された()。

症例2:60代男性、 8月25日発病。重症肺炎、 体温42℃、 呼吸困難、 意識障害が認められた。基礎疾患として動脈硬化症があり、 飲酒、 喫煙習慣を持っていた。レジオネラ肺炎が疑われ、 8月28日(4病日)に尿、 血清、 30日に喀痰を採取、 当所に検査依頼された。尿中抗原陽性、 喀痰PCR陽性で、 喀痰の培養でSG1のL. pneumophila が分離された。抗体価は未上昇であったが、 17病日の血清でSG1に対する抗体上昇(1,280倍)が確認された。患者は近隣のB温泉公衆浴場施設を利用していた。

症例3:60代男性、 8月31日発病。肺炎、 体温39.5℃、 胃腸炎症状もみられた。基礎疾患として糖尿病、 狭心症、 高血圧があり、 飲酒、 喫煙習慣は不明。レジオネラ肺炎が疑われ、 9月5日(6病日)に尿、 喀痰、 血清を採取、 当所に検査依頼された。尿中抗原陰性(ただし尿を10倍濃縮することにより陽性)、 喀痰PCR陽性であったが、 喀痰の培養でL. pneumophila を分離することはできなかった。抗体価は6病日、 11病日で有意な上昇は認められなかった。患者は症例2と同じB温泉公衆浴場施設を利用していた。

症例2、 3の患者はともにB温泉公衆浴場施設を利用していることから、 温泉水の検査が行われた。L. pneumophila 数は10cfu/100mlで、 SG1とSG4の株が分離された。症例2患者分離株と温泉分離SG1株のDNAの比較をPFGEで行ったところ、 同一のパターンを示し、 B温泉公衆浴場が感染源であると推定された。PFGEパターンは症例1患者分離株のパターンとは異なっていた()。

A、 Bの温泉公衆浴場は休業し(A約40日、 B約80日)、 保健所の指導の下、 必要な衛生対策を講じ、 レジオネラ菌が10cfu/100ml未満であることを確認後、 営業の再開をしている。

なお、 同時期に温泉や24時間風呂などとの関連が認められない、 感染源不明のレジオネラ肺炎患者の発生が確認された(7月13日発病)。この患者分離株もL. pneumophila でSG1であったが、 症例1、 症例2の患者分離株とPFGEパターンが異なるものであった。

医療機関でレジオネラ症が疑われたのち、 速やかに病原学的診断がなされることは、 感染源を推定し再発を防止する上できわめて重要である。尿中抗原の測定や喀痰のPCRは早期診断に有効なものであった。また、 感染源を特定する意味において患者および感染推定環境からの菌分離は重要である。

山形県衛生研究所
大谷勝実 最上久美子 池田辰也 村山尚子
山形県村山保健所 金田真弓

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