メリオイドーシスは、 土壌や水に生息するグラム陰性偏性好気性の菌(Burkholderia pseudomallei )にヒトや哺乳類が感染する疾患で、 東南アジアや北オーストラリアに蔓延する風土病として知られている。汚染された土壌あるいは水に直接接触したために、 切創や擦過傷から病原体が侵入するか、 汚染土壌の粉塵の吸入や汚染水の摂取により感染が成立する。潜伏期間は2日〜数カ月、 または数年に及ぶ。
2001年のシンガポールにおける報告数は59件で、 前年の77件から減少はしたものの、 依然として人口10万対で1.8である。この中には国外での感染が疑われる5例が含まれている。6つの病院から報告され、 93%(55例)は患者検体(血液、 喀痰、 膿、 尿など)の培養で菌を分離した。残り4例も、 臨床症状と間接血球凝集反応による16倍以上の抗体価上昇により診断された確定例である。症例の年齢分布は広く、 5歳〜96歳にわたり、 65歳以上の年齢群では人口10万対で4.9の最も高い罹患率をみた。また、 致死率もこの年齢群で25%と最も高かった。男性に非常に多く(4.9:1)、 またインド人系の罹患率が最も高く人口10万対で3.4、 マレー人系は2.4、 中国人系は1.4であった。地理的分布には目立った特徴はなく、 全島に散在しており、 8月に最も多くの報告があったが、 従来言われている雨期との相関はこの年には認められなかった。住居形態の違いにおける比較では、 土地付き戸建住宅の居住者(3.7/人口10万)の方が集合住宅(アパートなど)居住者より高い罹患率を示した。感染経路はほとんどが不明で、 なかには就業中や休暇中の野外活動での感染が疑われる例もあった。
主な臨床症状は発熱(83%)、 および咳嗽(49%)、 呼吸困難(12%)などの呼吸器症状で、 約半数が菌血症を呈し、 12%に限局性の多発性膿瘍がみられた。基礎疾患のある例が多く、 3割強に糖尿病が認められた。その他に、 高血圧や虚血性心疾患、 結核、 喘息、 腎不全などが報告されている。全体の致死率は約12%であったが、 基礎疾患のある例、 菌血症を呈している例、 喫煙者の例では、 そうでない例に対して統計学的に有意に致死率が高かった。
薬剤感受性試験の結果、 アミノ配糖体(3.8%)とアンピシリン(3.7%)に対する感受性が低かったが、 分離菌株はおおむねほとんどの抗菌薬に感受性があった。
シンガポール全土の土壌や水など環境から32の試料が採取されたが、 菌は検出されなかった。
本症は急速に死亡の転帰をとる菌血症をはじめ、 種々の非特異的な病態をとるが、 あまり一般に認知されていない疾患である。従って、 頻繁な野外活動など感染の機会の多い者はブーツを履き、 手袋をする、 また傷口などが土壌や水で汚染された場合には直ちに十分に洗浄し、 消毒するなどの基本的な予防策をとることと、 医療従事者が、 通常の抗菌薬治療に対し反応の悪い症例の鑑別診断として、 常に念頭におくことが最も重要となる。
(Singapore ENB, 28, No.8, 43-47, 2002)