−約20年間の血清型別推移−
サルモネラは細菌性食中毒の原因菌として、 検出頻度の最も高いものの一つである。我々は千葉県内の各保健所、 病院、 検査機関等で分離されたサルモネラの血清型別を、 20年以上にわたり行っている。最近、 その推移に興味ある知見が得られたので報告する。
千葉県で検出された腸管系病原菌の中で、 サルモネラは1980年代および1990年代を通じて第1位であったが、 2000年以後は腸管出血性大腸菌O157を含む病原大腸菌の増加にともなって第2位になった(図1)。サルモネラの年間検出数は、 集団食中毒の件数と規模により異なるが、 1994年は最多の522株であった。
図2は、 1980〜2002年に散発下痢症患者、 集団食中毒患者および保菌者から分離されたサルモネラ5,294株の血清型別検出状況である。1980年代はSalmonella (S .) Typhimuriumが最も多く、 サルモネラ全体の3割以上を占める年もあったが徐々に減少した。入れ替わるようにS . Enteritidisが増加し、 1990年代は圧倒的多数を占めた。1994年および1998年には、 分離されたサルモネラの6〜7割がS . Enteritidisであった。
表1は、 過去10年間に、 検出頻度の高かったサルモネラの血清型を示す。S . Enteritidisによる集団食中毒は毎年1〜7件発生し、 件数においても、 分離株数でも他の血清型より多かった。ただし、 1999年は、 全国レベルで発生したイカ菓子による集団食中毒事件のためS . Oranienburugの検出数が上まわった(表1の集計は、 1つの集団発生で検出された同一の血清型を1株と数えたため、 イカ菓子由来のS . Oranienburugの検出数の順位は低かった)。S . Enteritidisの他ではS . Typhimurium、 S . Infantis、 S . Thompson、 S . Hadar等の検出頻度が高かった。
上記傾向は、 日本のサルモネラ検出状況と同様であり(本月報Vol.16、 No.1、 Vol.18、 No.3およびVol.21、 No.8特集参照)、 千葉県におけるサルモネラ血清型分布も、 全国のそれと同様に推移していると考えられる。
1990年代のS . Enteritidisの増加傾向は約10年間続き、 千葉県では2000年頃から減少に転じた。この傾向は、 菌株の由来別にみると顕著である(図3、 図4)。散発下痢症患者および保菌者由来のS . Enteritidisは1989年から増加し始め、 1998年の分離数は124株(散発下痢症患者および保菌者由来株の65%)と、 ピークに達した。その後、 急速に減少し続け、 2002年は11株(同14%)であった。S . Enteritidisの減衰にともなって、 散発下痢症患者および保菌者由来のサルモネラ検出総数も減少しているが、 一方、 O4群、 O7群、 O8群等は種々の血清型が分離されていて、 これらの検出数は横這い状態か、 やや増加傾向にある(図4)。これらのことから、 1999年以後のS . Enteritidisの減少はこの血清型に特異的である。
日本のS . Enteritidisの増加は、 S . Enteritidisに汚染された輸入ヒヨコに由来する鶏卵が原因と考えられている。これをふまえて、 厚生省(当時)は食品衛生法施行規則および食品、 添加物等の規格基準を一部改正し、 1999年11月に施行した。これによって、 鶏卵を扱う業者や食品従事者のみならず、 一般の人々にも鶏卵の取り扱いに対する注意が喚起されたと思われる。一方では、 ヒナの種鶏場や養鶏場、 採卵場等の衛生管理の徹底がはかられてきた。上述のS . Enteritidis減少の真の原因は不明だが、 食品を含めた自然界のサルモネラの血清型分布に変動が起きていることも考えられる。現在のところ、 特に分離頻度の高い血清型はなく、 O4群、 O7群、 O8群を中心に種々の血清型が分離されている。今後検出される血清型の動向に興味が持たれるところであるが、 千葉県では2001年にS . Enteritidis、 S . Infantis、 S . Mbandaka、 およびS . Virchowの複合感染による集団食中毒という稀な事例があった(本月報Vol.23、 No.7、 p.16-17参照)。
サルモネラを分離し、 菌株を供与いただいた関係機関の担当者各位に深謝いたします。
千葉県衛生研究所 依田清江 小岩井健司