2002/03インフルエンザシーズンにおけるAH3型インフルエンザウイルスの分離報告は11月中旬の大阪市での2株に始まったが、 国立感染症研究所分与の今シーズンのウイルス同定キットに含まれる同シーズンのワクチン株であるA/Panama/2007/97に対するフェレット抗血清は、 この時の分離株に対してホモと同等の反応性を示している(本月報Vol.23、 No.12参照)。この分離に約1週間遅れて仙台市で海外への修学旅行の帰国途中に発症した患者に由来する3株が分離されたが、 これらに対し同抗血清はホモより2管低く反応し、 その後の分離株の傾向に注目していた(本月報Vol.24、 No.1参照)。その後12月中に仙台市および福岡市の複数の医療機関から得られたAH3型ウイルスについて抗原解析を行った結果、 同抗血清に対して反応性の低い分離株の割合が増加していたので報告する。
仙台市周辺と福岡市周辺の検体からのインフルエンザウイルス分離状況:われわれは以前から仙台で日常的に3つの病院と2つの診療所からの検体を受け付け呼吸器系ウイルスの分離を行っており、 今シーズンはこれまでインフルエンザの流行は大きくないものの、 12月第4週前半までに14株のAH3 型ウイルスを分離している。また、 今年の春から福岡市とその周辺で開業する小児科医のグループ(4診療所)と呼吸器系ウイルス感染症の疫学の共同研究を開始しているが、 このフィールドにおけるインフルエンザウイルスの分離が11月後半〜12月にかけて相次いでおり(合計139株)、 これらの結果から福岡市周辺でのインフルエンザの流行の立ちあがりが仙台市周辺に比べて早いことが明らかになった(表1)。
注目すべき分離ウイルスの抗原性について:これらの分離ウイルスについて国立感染症研究所から分与された今シーズンのウイルス同定キットを用いて抗原の解析を行ったところ、 前回の報告以来注目していたワクチン株である抗A/Panama/2007/97(H3N2)血清への反応性の低いウイルスが出現し、 同地域において流行していることが判明した(表2)。仙台市では、 当初HI試験でワクチン株とほぼ同じ反応性を示す株と、 それより2管低い株の2つに分離株が分かれていたが、 12月第3週以降は主に後者が分離されてきており、 さらに反応性の低い株も得られてきている。
一方、 福岡市の医療機関から分離された株は12月初めの分離当初からHI試験でワクチン株とほぼ同じ反応性を示す株は少なく、 ワクチン株より2〜3管低い反応性を示す株が大半であったが、 第2週、 3週もこの傾向は変らず、 その上4〜5管のずれを示す株まで無視できない割合で分離されている(69株中19株:27%)。第4週に入ってふたたびワクチン株とほぼ同じ反応性を示す株もとれており(14%)、 その地域では全体としてワクチン株より2〜3管低い反応性を示す株が主流で、 かつワクチン株類似の株も消えずに分離され続けているといった流行像となっている。
以上、 日本の北と南の2つの都市の複数の医療機関で共通してこれまでの流行ウイルスと抗原性のずれた株が流行の主流をなしていること、 さらにかなり抗原性が異なるウイルスまでとれ始めているということが明らかになった。これまで過去5シーズン連続してAH3型ウイルスの流行の主流は今シーズンのワクチン株と類似の抗原性をもったものであったが(本月報Vol.23、 No.12)、 以上の概況も考え合わせれば、 今後上記のような変異株H3型ウイルスが日本各地で流行する可能性は考えておく必要があろう。特にもし今回分離されているようなHI試験で4〜5管のずれを示すようなウイルスが流行する場合には、 今シーズンのワクチンの効果にも影響してくる可能性もあり、 今後十分な注意の必要があると思われる。
国立仙台病院ウイルスセンター
岡本道子 近江 彰 千葉ふみ子 伊藤洋子 桜井みどり 鈴木 陽 渡邊王志 西村秀一
しばおクリニック 芝尾京子
しんどう小児科 進藤静生
高崎小児科 高崎好生
やました小児科 山下祐二
IASR編集委員会註:現時点では上記のような低反応性株が多数を占めているという現象は、 福岡県、 福岡市、 仙台市を含む各地方衛生研究所からの報告の集計ではみられていない。全国的な状況については、 さらに多数、 多地域での分離報告について検討を加える必要がある。