小学校における風疹集団発生の調査−岡山市

(Vol.24 p 58-59)

調査の背景:2002(平成14)年5月27日(月)管内の小学校から、 5年生在籍37名中14名が風疹で欠席しており、 5月28日、 29日を学年閉鎖するとの連絡が保健所へあった。感染拡大防止および妊婦への感染防止のために、 注意喚起の文書を学校を通じ保護者へ配布した。1995年に風疹予防接種の対象者が女子中学生から年少男女に拡大されて以降、 風疹患者数は大幅に減少していた。岡山県内においても風疹の集団発生は1992年10月以来のことでもあり、 集団発生の状況を把握するとともに診断確定のための病原体調査および予防接種歴等を調査することとした。

調査対象および方法:

1)集団発生の状況調査:当該小学校の協力を得て風疹による出席停止数を把握した。

2)病原体調査:同意が得られた患児から咽頭ぬぐい液を採取し、 岡山県感染症発生動向調査事業の一環として、 岡山県環境保健センターで病原体検査を行った。

3)予防接種歴等調査:当該小学校の全児童 170名を対象に風疹予防接種、 罹患歴等について質問紙を配布し、 保護者から回答を求めた。調査票は5月31日〜6月3日に配布し、 6月7日回収した。

調査結果:

1)集団発生の状況:風疹の定点あたり報告数の推移をみると第22週(5月27日〜6月2日)まで、 岡山県全体、 岡山市のいずれにおいても多い週でも0.3程度と前2年より若干多いものの特に流行を示していなかった。なお、 同小学校の近くには定点医療機関はない。同小学校における風疹による出席停止を図1に示す。4月25日2名、 5月13日1名と散発していたが、 5月24日(金)3名に続き27日(月)にも11名と、 5年生で急増した。5年生の学年閉鎖後は4年生1名のみでいったん治まったが、 6月10日以降に散発的な発生があった。

2)病原体調査:病原体検査を5年生の5名の協力を得て行い、 すべての検体からnested PCRにより風疹ウイルスが検出された。また、 国立感染症研究所ウイルス第三部の協力を得て4名からはウイルスも分離された。検体採取時期は全員発症日から3〜4日目で、 うち解熱後2〜3日目が3名であった。

3)風疹予防接種歴等に関する調査:回答数は142名、 在校生の84%で男女差は無かった。風疹に罹ったことがあると回答した者は36名(回答者の25%:男23%、 女29%)だった。このうち予防接種を受けていた者は3名、 受けていなかった者は29名、 覚えていない4名であった。予防接種を受けた者における発症率(5%、 3/59)の受けていない者における発症率(40%、 29/73)に対する比は0.13と計算され、 予防接種によって発症率を0.13倍に減らせたと推定される。罹患者の44%(16名:5年生14名、 6年生1名、 学年不明者1名)は当学年での罹患だった。2002年に罹患した16名のうち最近1カ月程の間に家族内で罹患者がいた者は、 5年生の2名だった。また、 妊婦と接したことがあると回答した者は1名だった。

風疹ワクチンを接種したことがある者は、 回答者中42%(59名):男49%、 女33%であった。接種率は、 2年生の62%〜4年生の13%まで差があり、 5年生は37%と同校では特に低くはなかった。また、 2001(平成13)年3月に医師会が中学生を対象に行った調査では、 幼児期の接種率は35%であり、 中学期に17%がさらに接種を受けていた。当校児童は市内で特に低率ではないと思われる。

風疹に罹患したことがなく、 風疹予防接種も受けていないと回答した者を、 風疹に感受性を持つ者とすると、 6月7日の質問紙回収時に28%(40名)いた。に示すように、 感受性者の割合は女で33%と、 男24%より高く、 学年別では1年生で50%、 5年生は7%、 他の学年では30%前後であった。風疹での学年閉鎖があった5年生については今回罹患した14名を本集団発生以前の感受性者と考えた場合、 感受性者は16名(回答者の53%)となった。その後7月14日までに12名が風疹として出席停止となったが、 学年の偏りはなく、 4年生0名、 6年生3名以外は各2名であった。

「家族の中に予防接種希望者がいる」との回答は48名(34%)あり、 このうち定期予防接種の対象者は36名(75%)、 定期予防接種対象外の者は7名(15%)、 定期の対象者と対象外の者と両方いるという回答は2名(4%)、 無回答は3名(6%)であった。

結論:広域の流行がない時期に、 1小学校において風疹の集団発生があり、 1週間の間に出席停止となった者は全校の9%(15名)であった。2日間の学年閉鎖後に集団発生は治まった。また、 当学年の風疹罹患者で妊婦と接した者が1名あった。風疹予防接種率は42%、 罹ったことのある者は25%であり、 集団発生後少なくとも28%(42名)の感受性者がいた。34%の家族に予防接種希望者があり、 その75%は定期予防接種の対象者であった。その後も散発的発生があり2カ月間にさらに12名が出席停止となった。

岡山市保健所 中瀬克己 永田朱美
岡山県環境保健センター・微生物科 濱野雅子

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