先天性風疹症候群の1例 − 岡山県

(Vol.24 p 59-60)

低い風疹HI抗体価であった母体の顕性感染により発症した先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome, CRS)を経験した。

症例:母親は26歳。風疹の既往歴、 予防接種歴に関しては明らかではなかった。3回経妊2回経産。前2児は健常である。前回妊娠時(4年前)の風疹HI抗体価は8倍と低値であったが、 特に分娩後に予防接種は受けていない。在胎9週、 発疹が出現し前医を受診した。在胎10週1日の風疹HI抗体価は8であった。在胎11週5日には風疹HI抗体価が512と有意な上昇を認めた。また在胎12週5日の検査では風疹特異的IgM抗体陽性であった。風疹患者との接触は明らかではなく、 また周辺地区での明らかな風疹の流行も認められなかったが、 岡山市では5月末に小学校での集団発生が報告されている。前医でCRSの可能性について説明を受けた後、 両親が妊娠の継続を希望され当院紹介となった。在胎37週5日、 前児が帝王切開術にて出生したため、 患児も帝王切開術にて出生した。

経過:出生体重2,106g、 Apgar 1分7点、 5分7点であった。低出生体重児、 CRS疑いのため入院となった。入院時の計測にて体重、 身長ともに10パーセンタイル以下であり不当軽量児であったが、 頭囲は10パーセンタイル以上であった。羊水混濁があり、 軽度の呼吸障害を認めたが次第に軽快した。胸部レントゲン写真では軽度の肺紋理の増強と心陰影の拡大、 四肢長管骨に骨端骨透亮像を認めた(図1)。皮膚には体幹や鼠径部に点状出血斑を認め、 出生時の血液検査上で血小板8.3×104/μlと血小板減少症を認めた。これは日齢5に最低値3.9×104/μlとなったあと無治療にて改善した。先天性白内障・緑内障・網膜症などの眼科的異常、 先天性心疾患は認めなかった。聴性脳幹反応では右側では90dBにて反応を認めたが、 左側では無反応であり高度の感音性難聴が疑われた。頭部CT検査で両側脳室周囲に石灰化を認め(図2)、 脳波検査では異常(両側前頭〜中心部にAbnormal 7〜9Hz activity)を認めた。にCRSの臨床症状、 頻度と本症例の症状について示す。

ウイルス学的検査では咽頭ぬぐい液、 尿、 便からはウイルス分離は陰性であったが、 風疹特異的抗体価(SRLにて検査、 ルベラIgM(II)-EIAおよびルベラIgG(II)-EIA;デンカ生研)を測定したところ、 臍帯血の風疹特異的IgM抗体は7.85(<0.80)、 風疹特異的IgG抗体は44.2(<2.0)でともに陽性であった。患児の血清では風疹HI抗体価64、 風疹特異的IgM抗体は11.86でともに陽性であった。

以上より「感染症法に基づく医師から都道府県知事等への届出のための基準」において臨床症状による基準のうちAから1項目、 Bから3項目満たし、 病原体診断等による基準のうち2.に該当したためCRSの確定診断とし、 2002年12月に感染症発生動向調査事業における4類感染症の報告を行った。患児は全身状態も安定し、 哺乳も良好であったため日齢26に退院して外来にて経過観察中である。

今回の症例では4年前に母体が低い風疹HI抗体価であることが判明しており、 妊娠分娩後の予防接種を行い、 ブースター効果により高い抗体価を得ることで予防できた可能性が示唆された。顕性感染ではあったが、 感染源ははっきりしなかった。このような風疹抗体価が陽性であっても、 低い風疹HI抗体価である妊婦の次回妊娠前に予防接種を行うこと、 さらに妊娠前に追加接種を行うことの必要性を痛感した。

国立病院岡山医療センター・小児科新生児センター 安田真之 山内芳忠

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