予防接種法改正とその後の変化:風疹は、 1995年まで5年周期で流行し、 流行時に先天性風疹症候群(CRS)の発生が増加した。1965年〜1985年の間にわが国で少なくとも1,600名のCRS児が生まれ、 流行時には人工中絶も年間3〜4万件増加したと推定されている。1995年予防接種法の改正により、 風疹流行阻止によってCRSを防止しようと方針を変更した。風疹ワクチンの対象は女子中学生から、 12〜90カ月までの男女に変更になった。しかし、 そのままでは90カ月〜中学生までの児における接種機会がなくなるので、 2003年まで暫定的に中学生男女も追加対象となった。また、 集団接種から個別接種に変更となった。
生後12〜90カ月の男女に接種となったため、 接種率は約50〜70%であるが免疫を有する者が急速に増加した。また麻疹などと比較すると感染力も弱いことから、 流行がほとんどなくなっている。
一方、 中学生は個別接種となったため、 接種をしなくなった。我々が倉敷市で調査したところ、 図に示すように改正前集団接種では約70%の接種率が1996年に約6%に著減した。この低下傾向は全国的なもので、 中学生の接種率は全体で約40〜50%であるが、 まだ集団接種されているところが多く、 都会で多い無料の個別接種では約20〜30%しかない。日本産婦人科医会による2001(平成13)年妊婦の風疹抗体全国調査では、 22〜37歳までは4〜6%の陰性率であったが、 20〜21歳で8%、 18〜19歳で13%、 17歳以下で27%と年齢の低下とともに陰性率が増加していた。
将来の先天性風疹症候群の危惧と法見直しによる対策:予防接種法改正後、 幼児の感受性者が急速に減少し流行はほとんどなくなった。幼児における1回接種の効果がブースターなしで成人まで持続するであろうか。また風疹は再感染することがよく知られており、 再感染によってもCRS の発生が報告されている。風疹の流行がないと、 結局接種率が抗体保有率となる。現在、 成人女性における抗体保有率は約95%なので、 今後も接種率が現状のままであると抗体保有率は低下する。接種率が大幅に改善しないと感受性者が次第に蓄積し、 将来再び風疹の流行とCRSの増加を見ることになるであろう。
2001年11月に、 暫定期間の未接種者は定期接種できるように予防接種法が見直された。しかし、 医師を含めた多くの方はこの措置を知らない。我々の岡山県予防接種センター(川崎医大)では高校生以降の定期接種者が8カ月間でわずか3名、 倉敷市でも99名しかいなかった。試算では多く見積もって感受性者の1.6%未満しかない。
暫定的対象者(中学生)に対する取り組み:1997年接種者数の著減に気づいたため、 啓発活動を開始した。市保健課や教育委員会を通じて、 広報誌による再度のお知らせや学校から保護者への連絡を実施し、 地方新聞などでも啓発に努めた。また学校での啓発が重要と考えて、 養護教諭や保護者を対象にした講演会を実施した。しかし、 接種率は図のように満足な増加を得ることができなかった。保護者だけでなく、 自分の意志を持つ中学生には直接啓発することも重要と考え、 県健康対策課や教育委員会と協力して独自に作成した啓発用ビデオを岡山県内の中学校に送付した。視聴前後のアンケート調査では、 ビデオ視聴した感受性者の11.5%しか接種を受けなかった。Conjoint analysisによる検討では、 流行は接種率を18%増加させるが、 強い勧奨では12%、 ポリオのような集団接種で10%、 休日夜間接種でも3%しか増加しないと報告された。我々の他の経験でも勧奨だけでは約10%しか増加しなかった。また勧奨などの啓発は一過性であるため、 動機づけできるようなシステムが必要と思われる。そのひとつとして、 高校や大学も含めて入学時に感受性者を調査し、 予防接種証明書の提出を求めればいいであろうと考えた。しかし、 中止となる本年9月末日までは啓発活動しかなく、 私どもは高校、 大学、 各種専門学校、 医療機関に風疹啓発ポスターを送付し、 成人式では啓発プリントを配付し、 予防接種の市民公開講座も計画している。
幼児に対する取り組み:地域小児科医会が中心に医師会や教育委員会、 保健所などと協力し、 麻疹とともに風疹の啓発活動を実施している。明確な目標を設定し、 接種戦略として、 啓発活動、 調査、 勧奨、 動機づけ、 評価の5本柱を立てた。一過性の活動とならないように幼稚園や小学校、 中学校への入学時の調査後、 感受性者にはワクチン接種を勧奨し、 動機づけする方法として接種証明書を提出するように求めた。その結果、 接種率と既往率の合計が麻疹は90%以上を達成し、 風疹は幼稚園で87%、 小学校で79%となった。しかし、 中学校では57%と低かった。幼児の風疹ワクチン接種は、 MRやMMRワクチンが使用されると、 麻疹ワクチン接種率レベルまで増加するので、 早い導入が望まれる。
川崎医科大学小児科 寺田喜平