2002年に発生した日本脳炎の3事例について−広島県

(Vol.24 p 63-64)

広島県では2002年に3名の日本脳炎(JE)患者が発生した。広島県における過去のJE患者の発生状況は、 1960年代までは毎年数十名から100名前後の患者が発生していたが、 1970年代以降は急激に減少し、 1990年を最後に昨年まで患者の発生がなかった。

1例目:広島市在住の89歳女性で、 8月5日に意識障害、 四肢の固縮と38℃台の発熱・嘔吐があり、 受診後そのまま入院し、 8月12日に転院した。転院先の医師は臨床症状とMRI 上、 両側視床(右優位)・中脳・側頭葉内側にわたるT2高信号域を認める点、 および8月14日採取血清のJEウイルス(JEV)HI抗体価が160(2ME 処理後JEV-HI抗体価は80、 民間検査機関へ依頼)であったためJEを疑い、 9月6日に精査を依頼した。その後の経過は意識の回復が「はい」、 「いいえ」程度の意思表示ができるくらいで、 四肢の麻痺は軽度の改善をみるのみである(2002年12月20日現在)。

検査結果は、 JEVに対するIgM捕捉ELISA法で8月12日採取の脊髄液がIndex P/N値3.2(P/N値1.5未満:陰性、 1.5以上2.0未満:再検査または中和試験を実施、 2.0以上:陽性)、 9月6日採取の血清が同2.1で双方とも陽性であった。また、 RT-PCR法によるJEV遺伝子検出は陰性であったが、 脊髄液からJEV が分離された。分離ウイルスと標準株JaGAr#01とのE蛋白領域2,136〜2,458番目の塩基配列はわずかに1塩基異なるのみであった。

2例目:高田郡在住の77歳女性で、 8月29日に突然の39℃台発熱と嘔吐が出現し、 翌30日に受診、 入院した。この時はWBC 6,100、 CRP 0.06であった。9月1日より見当識障害が出現し、 9月2日より傾眠傾向となった。同日に頭部のCTを行うが著変を認めず、 髄液所見では単核球優位に細胞数が増加し(細胞数142/3、 単核球110/3、 多核球32/3)、 9月3日にはさらなる意識レベルの低下(JCS III-300)とMRI(T2/FLAIR)で両側性側頭葉内側部〜両側視床に限局性のT2高信号域を認めた。このためウイルス性脳炎と診断するものの、 HSVおよびVZVは陰性で、 9月13日に検査を依頼した。患者は9月30日に死亡した。

検査結果は、 JEV-HI抗体の有意な上昇が認められ(9月2日採取血清がHI抗体価20、 9月9日と13日採取血清がともに同2,560)、 JEV-IgM捕捉ELISA 法でも9月9日と13日採取血清のIndex P/N値はおのおの6.57と7.58で陽性であった(9月2日採取の髄液と血清はおのおのIndex P/N値0.85と1.65で陰性)。

3例目:豊田郡在住の60歳男性で、 8月23日に発病し、 同月26日に入院した。症状は39℃の発熱、 意識障害および全身の倦怠感であったが、 9月13日には回復し退院した。

検査は、 民間の検査機関で8月26日と9月9日採取の血清と髄液についてJEVに対する補体結合反応(以下CF)試験を実施した。その結果、 血清(8月26日がCF抗体価16、 9月9日が同 128)、 髄液(8月26日が同<1、 9月9日が同32)とも有意な抗体上昇が確認された。また9月9日採取の血清について抗体検査を実施したところ、 1,280以上のJEV-HI抗体価を保有し、 JEV-IgM捕捉ELISA法でもIndex P/N値3.63で陽性となった。髄液からのJEV遺伝子検出およびウイルス分離は陰性であった。

また、 国立感染症研究所・ウイルス第一部で行ったウエストナイルウイルスに対するIgM捕捉ELISA法では3症例とも陰性であった。

以上の結果から、 3症例ともJE患者と診断された。

JE流行予測調査では毎年7〜8月の豚血清中に抗JEV-2ME感受性抗体を検出しており、 今年度も7月26日採取の豚血清で同抗体を検出していた。

広島県保健環境センター
桑山 勝 高尾信一 福田伸治 島津幸枝 宮崎佳都夫
国立感染症研究所
倉根一郎 高崎智彦 山田堅一郎 根路銘令子 伊藤美佳子
広島県福祉保健部保健対策室
笠松純也 中村就一 宮脇弘幸
呉市保健所 香川治子 青山範子
国立療養所広島病院 越智一秀
広島県厚生農業協同組合連合会吉田総合病院 原田和歌子
中国労災病院 時信 弘

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