インフルエンザ様患者からのHuman metapneumovirusの分離−宮城県

(Vol.24 p 64-65)

宮城県内の感染症発生動向調査病原体定点医療機関において、 2003年1月上旬にインフルエンザ様患者から採取した咽頭ぬぐい液よりHuman metapneumovirus (hMPV)を分離・同定したのでその概要を報告する。

患者は6歳10カ月児で2003年1月4日に発病し、 6日に受診した。主症状は発熱(40℃)、 咳、 鼻汁、 咽頭発赤で、 インフルエンザを疑い迅速診断キットによる検査を行ったがA型およびB型ともに陰性であったため、 インフルエンザ様患者として咽頭ぬぐい液を採取した。当センターではインフルエンザを含めた呼吸器系ウイルスについて、 MDCK、 HEp-2、 LLC-MK2、 RD-18S、 Vero、 およびHMV-II細胞を用いて分離培養を実施した。培養初代は6種の細胞でCPEが観察されなかったため盲継代を行ったところ、 2代目のLLC-MK2細胞にCPEが出現し、 CPEはLLC-MK2の3代目以降も継続して確認されている。県内においては2002年末よりパラインフルエンザウイルスやRSウイルスが検出されていたことから、 CPEの形態は異なるものの、 これらのウイルスを疑いHA試験、 HAD試験あるいはRS診断用EIAキット(ディレクティジェンRS)を使用し同定を行ったがいずれも確定されず、 他の呼吸器感染症の原因となる病原体が考えられた。

そこで鈴木ら1)がhMPVのnucleocapsidコード領域を増幅するプライマーを独自に設計して、 臨床検体から同ウイルスの遺伝子検出ならびに分離培養を行っていたことから、 このプライマーを用いてRT-PCRを実施した結果、 271bpに特異的なバンドが検出された。さらに確認のためPeretら2)が報告しているnucleocapsidコード領域およびfusion proteinコード領域の一部を増幅するプライマーを用い再度RT-PCRを実施した結果、 それぞれ377bp、 450bpの特異的な増幅産物が得られた。さらにこの増幅産物についてダイレクトシークエンスを行い塩基配列およびアミノ酸配列についてホモロジー検索により解析を進めたところ、 Peretらが分離したウイルス株とnucleocapsidコード領域の塩基配列で98%、 アミノ酸配列で100%、 fusion proteinコード領域でそれぞれ97%および100%一致し、 今回LLC-MK2細胞で分離された病原体をhMPVと同定した。

hMPVは2001年にオランダのvan den Hoogenら3)が、 小児の気管支炎患者検体から初めて分離・同定し、 臨床症状からは、 RSウイルスによる呼吸器疾患と鑑別が困難であるとした。その後2002年にオーストラリア、 カナダにおいてウイルスを分離した報告4,5)がある。日本においては、 抗体測定を行った海老原らの報告6)によれば、 無作為に収集した血清のhMPV-IgG抗体陽性率は73%であったこと、 また鈴木ら1)はRS様患者でウイルス分離陰性検体の6%にhMPV遺伝子を検出していることから、 hMPVの広範な侵淫が明らかにされているが、 今のところウイルス分離の報告は見当たらない。

今回著者らは、 感染症発生動向調査において一般的にみられるインフルエンザ様患者の咽頭ぬぐい液から、 日本において初めてhMPVを分離した。本ウイルスと病態との関連については検討の余地が残されているが、 日本におけるhMPVによる感染症の実態を把握するためにも、 hMPVに着目した監視体制が必要と考えられる。

参考文献
1)日本感染症学雑誌(投稿中)
2) J. Infect. Dis. 186: 133-134, 2002
3) Nat. Med. 7(6): 719-724, 2001
4) Med. J. Aust. 176(4): 188-189, 2002
5) J. Infect. Dis. 185: 1660-1663, 2002
6)第34回 日本小児感染症学会抄録; C26:114, 2002

宮城県保健環境センター・微生物部
後藤郁男 山木紀彦 植木 洋 佐藤千鶴子 渡邉 節 秋山和夫
国立仙台病院ウイルスセンター 鈴木 陽 西村秀一
大友病院ヒロミ小児科 大友弘美

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