2002年10月、 帯広市内の保育園において腸管出血性大腸菌(EHEC)O111(以下O111)による集団感染事例を確認したので、 その概要を報告する。
2002年10月15日、 3歳の男児AからO111(stx 1)を分離した旨の届け出が医療機関から帯広保健所にあった。同患児Aについては、 10月4日頃から発熱と水様便が認められ、 8日に腹痛を訴えたため医療機関で診察を受け、 15日に診断が確定した。Aはこの間、 M保育園に通っていた。
帯広保健所はM保育園の園児92名とAの家族、 常勤職員14名、 非常勤職員10名を対象として聞き取り調査を行うとともに、 Aの家族、 園児、 同園職員の糞便検査を行った。また、 施設のふきとり(7検体)および検食(10検体)についても検査を行った。その結果、 Aの家族2名および園児6名(1歳児3名、 2歳児1名、 4歳児2名)からO111(stx 1)が検出され、 ふきとり試料および検食からは検出されなかった(表1)。本菌が分離された家族の1名はAの祖父で、 もう一人はその妹B(1歳)であり、 M保育園の園児でもある。この妹については、 9月28日から数日間、 Aと同様の症状を示していたことが判明した。聞き取り調査の時点では、 本菌が分離されたA、 Bを除く菌陽性者の園児6名には症状は認められなかった。
分離されたEHEC O111:H-(stx 1)についてはリジンデカルボキシラーゼ陰性、 eaeA (+)の株であった。薬剤感受性試験においてはABPC、 SM、 KM、 TCに耐性を示し、 CTX、 CPFX、 GM、 FOM、 CP、 NAに感受性であった。分離された9株をPFGEで比較すると、 100kbp付近のバンド1本にのみ違いが認められた1株を除き、 他の8株については同一のパターンを示した(図1)。したがって、 本事例は同一の菌による集団感染と考えられた。
M保育園での食事については家庭から米飯のみを持参し、 副食については園内で調理されて提供されていた。しかし検食から本菌は検出されず、 また前述のごとく、 Aの妹であるBが9月下旬に同様の胃腸炎症状を呈していたことから、 本事例については人−人による感染の可能性が考えられた。本事例において感染源を特定することはできなかったが、 O111による事例は依然として後を絶たないので、 今後も本菌に対する監視と予防対策の強化が必要である。
北海道立衛生研究所
長野秀樹 熊田洋行 若森吉広 武士甲一 小川 廣
北海道帯広保健所
和田聖一 舘香奈子 加納 郎 長澤基博 菅原洋子