東京都立駒込病院での赤痢アメーバ症例

(Vol.24 p 81-81)

東京都立駒込病院で取り扱う赤痢アメーバ症は年間20例を超え、 そのうち入院を要する患者数は2002年の集計では8症例であった。1999年4月の感染症法施行以降、 本症での入院治療例は主に肝膿瘍合併例や大腸炎による腸管穿孔の合併症例、 合併疾患の治療目的となっており、 全身状態の良い大腸炎単独の症例や嚢子(シスト)キャリアーは外来での通院治療の対象である。

2002年の入院症例の性別はすべて男性であり、 そのうち4症例では男性同性愛者であることが確認できている。残る4症例のうち3症例については男性同性愛が否定されており、 異性間の性交渉による感染が疑われた症例である()。一方、 本年は既に女性の赤痢アメーバ症を2例経験しており、 いずれの症例もCSW(commercial sex worker)であった。性風俗の多様化した今日では、 女性の感染例にも注意が必要である、 という警鐘としてとらえなければならず、 異性間性交渉による感染者とあわせて今後の症例の増加が危惧される。さらに全症例とも海外渡航歴はなく、 海外での感染が疑われる症例は当院ではまれである。

合併する他の性感染症の存在についても重要であり、 2002年の入院症例8例のうち、 4症例でHIV感染症の合併がみられた。特に注目すべき点として、 それら4症例とも男性同性愛者であり、 その他、 梅毒、 B型肝炎なども男性同性愛者の赤痢アメーバ症に合併することが多い()。以上のことは、 男性同性愛者間における性交渉では、 高い性感染症のリスクを持つことを示唆しており、 赤痢アメーバ症は性感染症であることも意味している。今後は正確な感染経路の特定とともに、 同性間・異性間での感染予防に関する知識の普及が急務であるといえる。

赤痢アメーバ症の治療はメトロニダゾール(商品名:フラジール)の経口投与が基本である。2002年の入院症例8例については、 経過中に腸穿孔を合併した1症例を除きメトロニダゾールの単独投与で治癒している。一方、 腸穿孔例では、 デヒドロエメチン(1mg/kg)の筋注に変更し、 外科手術とあわせて良好な治療経過を得た。このように、 メトロニダゾールは本症に対して比較的高い治療効果を有する一方で、 慢性のシストキャリアーについては完全なアメーバの駆除に難渋する症例も多い。特に1999年4月の法改正以降、 全身状態のよい大腸炎単独の症例では外来での通院治療が可能となり、 メトロニダゾールの治療効果を議論する際には常に服薬のコンプライアンスが問題になることが多い。そのため、 当院では初回1クールの治療後に感染の持続がみられた場合、 繰り返し服薬指導を実施し、 再度メトロニダゾールの投与を試みている。このほか、 シストキャリアーでは未認可のフロ酸ジロキサニド(商品名:フラミド)の投与をメトロニダゾールと併用して用いることがあるが、 その効果は現在のところ限定的である。

慶應大学熱帯医学・寄生虫学教室 前田卓哉
東京都立駒込病院・感染症科 今村顕史

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