腸管出血性大腸菌O26集団感染事例−長野市

(Vol.24 p 89-90)

2002年7月に長野市保健所管内の学校給食センターの献立が原因の腸管出血性大腸菌O26集団感染事例が発生したので概要を報告する。

2002年7月22日、 長野市内の2医療機関から腸管出血性大腸菌(EHEC)O26(VT1産生、 以下O26)が検出され、 患者3名発生の届け出が当所にあった。同日から接触者調査を実施するとともに、 感染経路の調査を開始した。

患者はいずれも市内の小学生で、 詳細な患者情報から、 (1)近隣に居住している、 (2)通学している小学校は別々、 (3)学校給食センターの献立が共通、 (4)3名は知り合いではなく、 家族も含めつながりはない、 (5)共通の学外活動、 行事等の参加はない、 等が判明し、 共通事項が学校給食センターの献立であったことから同施設の調査を開始した。

この給食センターでは市内の小中学校25校を管轄しており、 小学校2コース(Aコース10校とBコース9校)、 中学校1コース(Cコース6校)の3コースに分けて調理・配食している。初発患者の小学校はこのうちのAコースに3校とも属していた。また3人の中で最も早かった発病日が7月14日であったため、 検査開始時点で保存してあった9日〜12日(金)のAコースの食材・調理食品106検体とふきとり56検体、 水道水4検体(患者発生小学校の受水槽の水3検体を含む)について検査した。また、 給食センター職員全員80名とセンターへの食材等の納入業者153名の検便を実施した。いずれもO26は検出されなかった。

一方、 25日には医療機関から新たに患者1名(初発の小学生と同じ小学校に通学)の届け出があり、 さらに保健所での接触者調査により家族1名が無症状病原体保有者と判明した。これにより感染の拡大が危惧されたため、 27日から学校給食センター管内の小中学生のうち7月7日以降に症状のあった者(533名)について検便を実施し、 21名の感染者が確認された。

この間、 市民の不安を解消するために、 保健所での健康相談窓口を開設し検査体制の強化を図るとともに、 「O26ホットライン」を設置し、 電話相談体制の強化を図った。また、 保健所ホームページにて「O26情報」を配信し、 迅速な情報の提供に努めた。

31日までに初発患者を含めて25名の感染者が確認され、 また無症状者でも保菌する可能性があることから、 これ以上の感染拡大を防止するために検査対象者を学校給食センター管内の25校すべての児童・生徒・教職員に拡大して一斉検査を実施した。一斉検査は8月1日〜6日に各学校を会場に合計9,151名の検体を収集し検査した。短期間に多数の検査を実施しなければならず、 検体数が当検査施設の処理能力をはるかに超えていたため、 長野市内を中心に委託検査機関を選定し、 5機関に検査委託した。その結果、 新たに16名からO26が分離された。

以後、 保健所相談窓口の開設を8月27日まで実施し、 給食センター管内の検便実施者は合計11,889名(対象予定者12,289名:実施率97%)、 感染者は届け出の患者を含めて小学校7校(49名)、 中学校2校(2名)、 家族4名(小学校家族3名、 中学校家族1名)、 合計55名となった。このうち小学校7校はすべてAコースに属していたが、 中学校2校はCコースであった。

検査は、 分離培地としてCT-RMac 培地を使用した。直接分離培養と増菌培養を行い、 増菌はTSB 37℃6〜24時間培養後食品については免疫磁気ビーズ法を実施した。検体数が多かったため、 TSBの代わりにNmECを一部使用した。疑わしいコロニーを5個釣菌しTSI寒天、 LIM培地で生化学性状を確認するとともにBHI寒天培地で37℃3〜5時間純培養後O26ラテックス凝集能を確認し、 VT試験を実施した。VT試験は迅速性を優先しイムノクロマト法でスクリーニングし、 RPLA法で確認した。また、 釣菌の際にエンテロヘモリジン血液寒天培地にも接種し、 溶血を確認することで検出漏れがないようにした。さらに血清型の決定をするために100℃60分加熱死菌でO型別を実施するとともに、 H型別検査を実施した。

検出された55菌株はすべてEHEC O26:H11 VT1産生であり、 長野県衛生公害研究所経由で国立感染症研究所へPFGEによる疫学解析を依頼した。その結果、 小学生とその家族すべておよび中学生1名の計53名が同一パターンを示したが、 もうひとりの中学生とその家族1名の計2名は53名とは不一致となった。感染経路を推定した当初から、 Aコースに感染者が集中したため、 Aコースの献立が原因だとすると、 なぜCコースから感染者が2名検出されたのか不明だったが、 調査の結果、 小学生と同様のパターンを示した中学生にはAコースの小学校に通う弟がいたことがわかり、 二次感染と推定された。また、 別の中学生はその家族とともにPFGEの結果から別ルートでの感染であることが判明した()。

陽性となった55名のうち症状があったのは37名で、 発症日は7月15日にピークがある一峰性を示した()。

その後感染者は8月8日以降検出されず、 8月22日に感染者全員の陰性を確認し、 また学校給食センターの安全性の確認ができたことにより、 26日から給食業務を再開した。

給食センターの各種調査からはO26は検出されなかったため、 原因の特定には至らなかったが、 国立感染症研究所のFETPの疫学調査等により「本事例は学校給食センター、 Aコースの献立が原因と思われる」との結論が示された。

今回の事例の原因菌はVT1産生株であり症状が比較的軽く、 無症状病原体保有者も多く、 さらに学校給食センターという大量調理施設が感染源と推定されたために、 総検査数12,705検体もの予想外の大規模調査となり、 健康危機管理体制の充実が求められている中で、 検査部門の有効な役割はどうあるべきかを見直す事例となった。

また、 感染源の推定の際にPFGEの結果が重要な役割を果たしており、 疫学調査上PFGEは欠かせない検査であることを再認識した事例であった。

長野市保健所・衛生検査課
赤沼益子 粕尾しず子 岡村雄一郎 鈴木秀夫
長野県衛生公害研究所 村松紘一 関 映子
国立感染症研究所 大山卓昭 鈴木里和

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