ハヤシシチューを原因としたウェルシュ菌による食中毒事例−富山県

(Vol.24 p 91-92)

2002年11月7日朝、 U市の飲食店から、 前日の昼に配達した弁当を喫食した事業所の従業員4名が下痢の症状を訴えているとの通報が厚生センターにあった。さらに、 同日昼、 K医療機関から、 他の2事業所でも同様の症状の患者の発生がある旨連絡があり、 食中毒として届け出された。

調査の結果、 共通食は11月6日にU市の飲食店で調理された昼食弁当のみであったことから、 この弁当を原因食品と断定した。最終的に摂食者数は1,370名、 患者数687名となった。主な症状は、 下痢(97%)、 腹痛(44%)で、 平均潜伏時間は12.4時間であった。

病因物質の究明のため、 患者便30検体、 調理従事者便21検体、 検食9検体、 施設ふきとり10検体について厚生センターで細菌検査を行った。その結果、 患者便28検体、 調理従事者便13検体からウェルシュ菌が検出された。また、 検食では、 6日の昼食弁当のハヤシシチューからのみウェルシュ菌が検出された。施設ふきとりからはウェルシュ菌は検出されなかった。衛生研究所において、 14検体(患者便9検体、 調理従事者便4検体、 検食1検体)を塗抹したKM加卵黄CW寒天平板からcolony sweep法により集菌し、 ウェルシュ菌のエンテロトキシン遺伝子(cpe 遺伝子)をPCR法で調べたところ、 12検体からcpe 遺伝子が検出された。改めてcpe 遺伝子が検出された寒天平板から単独コロニー5〜10個を釣菌し、 RPLA法でエンテロトキシン産生性を調べたところ、 10検体(患者便7検体、 調理従事者便2検体、 検食1検体)からエンテロトキシン産生性ウェルシュ菌が検出された。これら分離菌株は市販血清(デンカ生研製)で型別不能であったので、 うち6株(患者便由来4株、 調理従事者便由来1株、 検食由来1株)の血清型別を東京都立衛生研究所に依頼したところ、 すべての菌株が血清型TW24/26であった。

以上の結果から、 本事例は昼食弁当のハヤシシチューを原因としたウェルシュ菌による食中毒と決定された。ハヤシシチュー(人参、 玉ねぎ、 豚肉、 カリフラワー、 カレールー)は当日6時頃煮込み終了し、 合成樹脂製バット4箱に分け、 真空冷却機で冷却され、 次に冷蔵室に約1.5時間おき、 8時に盛り付け開始し、 10時から各事業所へ配送されていた。汚染経路究明のため、 ハヤシシチューの食材の一部(人参1検体、 カリフラワー1検体、 カレールー2検体)を検査したところ、 カレールー1検体からウェルシュ菌が検出されたが、 エンテロトキシン非産生性であった。藤澤ら(食衛誌、 42、 394-397、 2001)も、 市販国産カレールー60検体のうち7検体(12%)からエンテロトキシン非産生性のウェルシュ菌が分離されたと報告している。他の食材のうち食肉等は残品がなかったことから検査できず、 汚染経路の究明にまでは至らなかった。

今回の食中毒発生要因の一つとして真空冷却機の取り扱いが不適正であったことがあげられる。真空冷却機は加熱調理後30分以内に中心温度を20℃以下に冷却し、 放冷時間を短縮できる非常に便利な機械である。しかしながら、 タイマーの設定に関して、 調理者の認識不足から、 実際の冷却時間は予定より短く、 今回の原因食品であるハヤシシチューの中心温度が十分に下がらず、 30℃以上になっていたと推測される。さらに、 真空冷却機の特徴として、 空気を抜き取るために、 ハヤシシチューの内部はより嫌気状態となり、 ウェルシュ菌の発育に好適な条件であったと考えられる。

富山県新川厚生センター魚津支所 小川寿人 高田博司 下澤利枝 松田和久
富山県新川厚生センター 牧田拓夫 南部厚子 上野美穂 高橋克巳
富山県衛生研究所 田中大祐
富山県食品生活衛生課 松澤留美子

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