2002年11月に中国広東省における異型性肺炎の多発、 2003年1月に香港において福建省から戻ってきた親子からのインフルエンザウイルスA(H5N1) 型の分離に引き続き、 2003年2月末にベトナム・ハノイで医療スタッフを中心として、 原因不明の急性肺炎の多発がみられた。この集団発生の発端になったのは、 2003年2月下旬、 上海・香港等を旅行したアメリカ人が、 ベトナム・ハノイで体調を崩し入院したものとされる。3月上旬約20人の入院先の医療スタッフが同様の症状を示した。また同時期にこの発端者とは別に、 香港の他の病院の医療スタッフ約20人が同様の症状を示した。なかには中国の広東省に滞在した後の患者も含まれている。
その後、 ベトナム・香港での患者数の増加、 シンガポール、 カナダ、 ドイツでの類似患者の発生が報告され、 世界保健機関(WHO)はそれぞれの関係は不明であるが病原体不明であること、 感染拡大の危険性がある、 などの点を考慮し、 3月12日に重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome, SARS) - Global Alert - として発表した。原因に関しては不明であるが、 人から人ヘの直接感染が強く疑われており、 患者と濃厚に接触する家族や医療従事者においては二次感染を生じないよう、 特に注意が必要である、 とされた。
わが国でも、 WHOの発表した症例定義を参照し、 以下のような症例を対象に全医療機関からの届け出を求めた(「厚生労働省健康局結核感染症課長通知 平成15年3月16日」)。
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原因不明の重症急性呼吸器症候群の症例定義
○疑い例
2003年2月1日以降に以下のすべての症状を示して受診した患者で
・38度以上の急な発熱
・咳、 息切れ、 呼吸困難感などの呼吸器症状
かつ、 以下のいずれかを満たす者
・原因不明の重症急性呼吸器症候群の発生が報告され ている地域へ旅行した者
・原因不明の重症急性呼吸器症候群の症例を看護・介 護するか、 同居しているか、 近距離で接触するか、 患者の気道分泌物、 体液に触れた者
○可能性例
疑い例であって、
・胸部レントゲン写真で肺炎、 または呼吸窮迫症候群 の所見を示す者
または
・原因不明の呼吸器疾患で死亡し、 剖検により呼吸窮 迫症候群の病理学的所見を示した者
(備考)重症急性呼吸器症候群は、 発熱、 呼吸器症状に加え、 頭痛、 筋硬直、 食欲不振、 倦怠感、 意識混濁、 発疹、 下痢等の症状を伴なう。
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2003(平成15)年4月5日現在、 20カ国/地域から累積で2,416例の症例と89例の死亡例の報告がされ(詳細は本号15ページ参照)、 感染様式として空気感染の可能性も危惧されている。また当初関連不明とされていた中国広東省の異型性肺炎の多発もSARSに含まれるものと考えられるようになってきている。病原は不明であるが、 パラミクソウイルス(ことにmetapneumovirus)あるいはcoronavirus(ことに変異型)が目下のところでの有力な候補としてあげられている。
4月4日17時現在、 わが国では疑い例19例、 可能性3例の届け出はあるが、 いずれも回復しておりSARSの範疇に入るものではないとされている。
国立感染症研究所・感染症情報センターではホームページ(http://idsc.nih.go.jp/index-j.html)に、 「緊急情報(重症急性呼吸器症候群)」の項目を設け、 WHOから発信される重要情報の日本語訳、 国内外の患者発生状況、 Q&A、 ガイドライン、 厚生労働省の通知等を掲載し、 最新情報の提供を行っている。
国立感染症研究所・感染症情報センター 岡部信彦