Human metapneumovirusを原因とする小児の急性呼吸器感染症の流行−広島県

(Vol.24 p 161-162)

2001年、 オランダのvan den Hoogenら1)が、 急性呼吸器疾患を呈した小児から新しいパラミクソウイルスを分離し、 Human metapneumovirus(hMPV)と命名した。その後、 オーストラリア、 カナダ、 英国およびフランスでも急性呼吸器疾患の患者から同様のウイルスが見つかっている。さらに日本国内においても、 後藤らが本年(2003年)1月にインフルエンザ様疾患を示した6歳の小児からhMPVを分離し、 わが国におけるhMPV感染症の存在を明らかにしたが(本月報Vol.24、 No.3、 64-65参照)、 依然としてその実態は不明な点が多い。

今回我々は、 2003年1月以降に広島県内の医療機関を受診し、 急性呼吸器疾患と診断された小児108名を対象に、 RT-PCR法によるhMPVの検出を試みたところ、 47名の患者からhMPVが検出されたので、 それらの概要を報告する。

対象は広島県感染症発生動向調査事業によって、 2003年1月以降に急性呼吸器疾患の症状を呈した患者のうち、 我々が日常的に実施しているウイルス検査でインフルエンザウイルス、 アデノウイルス、 エンテロウイルス等の呼吸器系ウイルスが分離されなかった108名である。それらの患者から採取された鼻咽頭ぬぐい液あるいは鼻汁を検体としてRNAを抽出、 Peretら2)が報告したhMPVのfusion proteinをコードする領域の一部450bpを増幅するプライマー・ペア(MPVF1f:5'-CTTTGGACTTAATGACAGATG-3',MPVF1r:5'-GTCTTCCTGTGCTAACTTTG-3')を用いてRT-PCRを実施した。この1st PCRが陰性だった場合は、 さらにその領域の内側357bpを増幅するように我々が設計したプライマー・ペア(MPVF2f:5'-CATGCCGACCTCTGCAGGAC-3',MPVF2r:5'-ATGTTGCAYTCYYTTGATTG-3')を用いてNested PCRを実施し、 hMPV特異的な遺伝子増幅を確認した。なお、 一部のRT-PCR産物についてはダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定し、 hMPVに特異的な塩基配列を増幅していることを確認している。

RT-PCR法による検索の結果、 患者47名の検体からhMPVが検出された(43名は1st PCRで陽性、 残り4名はNested PCRで陽性)。RT-PCRが陽性でhMPVの感染が確認された患者の臨床診断名の内訳は、 上気道炎が16名、 気管支炎(喘息性を含む)・肺炎が30名、 発熱・痙攣が1名であった。また、 すべての患者で39.0℃以上の高熱が認められたのが特徴的で(中央値:39.5℃)、 最も高熱を示した症例では41.2℃もの発熱を呈していた。図1に示すように、 hMPV陽性患者は2003年1月〜2月には1名も認められず、 3月第1週以降に急増し、 現在(5月第3週)でもなお患者の発生が続いている状況にある。陽性患者の年齢分布を図2に示した。患者はいずれも9カ月齢〜12歳6カ月齢までの小児であったが、 1〜4歳が大半(75%)を占めていた(中央値:3歳3カ月)。

小児hMPV感染症例を初めて報告したvan den Hoogenらによれば、 その臨床像はRSウイルスにより引き起こされる病態に類似していると説明されている。今回我々が示した患者についても、 RSウイルス感染症の病態に類似しているとも言えるが、 急な39℃以上の高熱と、 それに伴う上気道炎ないし下気道炎を示すという点で、 むしろインフルエンザの病態に近い印象を受ける症例が多かった。また、 RSウイルスを原因とする下気道炎の好発年齢が1歳以下の乳幼児であるのに対し、 今回我々が示した患者では、 それより年齢が高い3歳を中心とする年齢層に患者が多発していた。この点はhMPVを原因とする急性呼吸器感染症とRSウイルスのそれとの鑑別に重要であるかも知れない。hMPV感染症の流行時期についても、 これまでの海外での報告例では冬季に患者が多発しているが、 2003年に広島県において認められたhMPVの流行では、 冬季ではなく、 むしろ3月以降の春から本格的な流行が始まっていたと考えられる。今回我々が示した47名の患者の中には、 兄弟間の家族内感染と思われる症例が2組認められたが、 それら以外の患者においては患者相互に関連はなく、 また検体を採取された医療機関も県内の異なる地域に立地していることからみて、 県内の複数地域で同時にhMPVの流行があったものと推察される。

hMPV感染症については、 ウイルスが発見されてから間がないことから、 その疫学的な実態については不明な点が多い。今後、 年間を通じてhMPV感染症の発生動向を調査するとともに、 長期的な監視により経年的な流行規模を把握し、 その要因等を解明して行きたいと考えている。

文 献
1)Nat. Med. 7(6): 719-724, 2001
2)J. Infect. Dis. 185: 1660-1663, 2002

広島県保健環境センター・微生物第二部
高尾信一 島津幸枝 福田伸治 桑山 勝 宮崎佳都夫
原小児科 原 三千丸
マツダ(株)マツダ病院・小児科 柏  弘 下薗広行
県立広島病院・小児科 坂野 堯
国立福山病院・小児科 岡田麻衣子 堀川定儀 荒木 徹 池田政憲

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