−IIIa型の検出−
A型肝炎は、 感染症法で4類感染症(全数報告)として届け出と集計が行われているが、 A型肝炎ウイルス(HAV)の検出は集団発生等での事例報告が主であり、 散発の報告はあまり見られない。HAVは食品衛生法(平成9年5月30日改正)の中で病因物質としてあげられ、 ウチムラサキ(通称:大アサリ)による食中毒事例(本月報Vol.23、 No.5、 119-120参照)も報告されている。また、 検査法は食監発第 0816001号(平成14年8月16日付)「ふん便及び食品中のA型肝炎ウイルスの検査法について」として詳細が示された。
仙台市では例年、 年間およそ10件程度の急性A型肝炎が報告されるが、 昨年(2002年)3月下旬〜4月ではわずか1カ月間に8件(4月だけで5件)の報告がみられた。当所では、 検査法の立上げと分子疫学的調査を目的とし、 7月より10件をめどに4類感染症として急性A型肝炎が届け出られた際に検査を試みることとなった。2002(平成14)年7月末〜2003(平成15)年4月末までに計7件届け出があり、 いずれの例でも病院と患者の協力が得られ検査を実施することができた。
患者は年齢29〜65歳、 性別は男性3名・女性4名であり、 推定感染地もしくは居住地を海外とする例が2名含まれていた。さらに1名は推定感染源を食品としていた。検査では、 患者糞便7件(病日11〜26日に採取)を検査材料とし、 HAVのVP1-2A領域についてRT-PCR法による検出とダイレクトシークエンスを行った。塩基配列データは解析ソフト(Genetyx-Win ver4.0)[ゼネティックス(株)]でUPGMA法により樹状図を作成し、 B.H. Robertsonらの方法(J. General Virol. 73(6), 1365-1377, 1992)により遺伝子型別を試みた。
検査の結果、 すべての検体からHAVを検出し、 遺伝子型別では6件がIa型であり、 残る1件は国内外で報告がまれなIIIa型(図)であった。
糞便の半数近くは発症後3週間以上経過して採取されており、 診断時既に無症状の患者も含まれていた。潜伏期間が約1カ月とされることを考え合わせると、 感染者は非常に長い期間HAVを排泄し続け、 二次感染源となる可能性があることを改めて痛感させられた。
国内ではこれまで「Ia、 Ib、 IIIb」が検出され(本月報Vol.21、 No.4、 74参照)、 集団事例でも福祉施設での例(本月報Vol.17、 No.3、 51-52 参照)等「Ia」型によるものが主に報告されている。また、 当調査でIIIa型を検出した患者は、 中国の上海居住中に発症しており、 現地において感染したと考えられる。しかし、 これまで近隣の中国・韓国いずれの国でもほとんどがIaやIb型の検出報告であり、 「IIIa」型の報告は皆無であることから、 この患者はこれら以外の地域から上海に持込まれたHAVに感染した可能性も考えられた。国外感染が推定される例がここ3年増加傾向であり、 推定感染地として中国が特に多い(本月報Vol.23、 No.11、 271-272参照)ことから、 輸入感染症としての監視も重要と思われる。
最後に、 本調査の検体採取にご協力いただいた市内の医療機関の諸先生方と、 HAVコントロール株を分与いただいたデンカ生研(株)桑原 靖氏に深謝致します。
仙台市衛生研究所
関根雅夫 橋本 渉 勝見正道 小黒美舎子 熊谷正憲 吉田菊喜