2003年1月11日、 県内の医療機関から嘔吐、 下痢の食中毒症状を呈する小学生を数名治療した旨の連絡が管轄保健所にあった。同医療機関によると、 患者らはK町内のK小学校に通う児童であるため、 管轄保健所は当該小学校に対し、 他に同様の症状を呈した児童がいないか確認したところ、 他にも多数いることが判明した。このため同保健所では、 患者の喫食状況、 発症状況、 当該小学校の給食施設に対する調査および患者の検便等を実施した。
調査対象者は当該小学校の児童532名、 教員32名、 給食施設調理員5名の計569名であった。細菌学的検査は、 検便113件(児童109名、 教員2名、 調理員2名)、 食品25件、 ふきとり11件を対象に行った。ウイルス学的検査は検便16件[児童9名、 教員2名、 調理員5名(発症者2名を含む)]を対象に行った。細菌学的検査は定法に従い、 ウイルス学的検査はノーウォーク様ウイルス(NLV, norovirus)検出のため、 EIA法と電子顕微鏡(EM)法およびPCR法を実施した。PCR法のプライマーはCOG系を用い、 目的とされるバンドが検出された検体は、 RING1-Tp(a) 、 RING1-Tp(b)、 RING2-plateの各プローブを用いマイクロプレートハイブリダイゼーション法によりNLV遺伝子の確認を行った。
調査の結果、 発症者が当該小学校の児童、 教職員(調理員含む)に限られること、 当該事件の共通食品は同校の給食施設において提供された食品以外にないこと、 発症者は全員9日、 10日の給食を食べていること、 同校の使用水は町の水道を使用しており、 立ち入り検査時に0.2ppmの残留塩素が確認されていること、 がわかった。患者の発症状況は、 発症者数は187名(児童180名、 教員5名、 調理員2名)、 発症率は33%であった。臨床症状の発現率は、 嘔吐94%、 発熱72%、 嘔気61%、 下痢35%で、 発症までの平均潜伏時間は9日給食で35.8時間(10日給食:11.8時間)であった(図1)。
細菌学的検査の結果、 便、 食品、 ふきとり検体から有意な食中毒菌は検出されなかった。ウイルス学的検査の結果、 患者13名中12名(児童8名、 教員2名、 調理員2名)からNLVgenogroup (G) IIが検出され、 無症状の調理員1名からNLV GIが検出された(表1)。
以上から、 保健所は当該小学校で提供された食品による食中毒と断定した。検食等の食品についてNLVの検査を実施していないので汚染経路の特定はできなかったが、 11日の聞き取り調査で、 調理に従事した調理員2名に発症者と同様の症状が認められ、 事件後の検便においてNLV GIIが検出された。そのうち1名は、 9日から体調の異常が認められたが、 そのまま調理業務に従事し、 10日は調理業務終了後早退していた。これらのことより調理員からの食品へのNLV汚染による食中毒と考えられたが、 その汚染経路については特定できていない。
事件後保健所は、 以下の4点について指導を行った。(1)当該小学校に対し、 調理室および使用調理器具の洗浄・消毒の徹底。(2)調理従事者は、 下痢・発熱等の症状がある場合、 調理作業に従事しないこと。(3)NLVの検出された調理員はウイルスの排泄がないことを確認してから調理業務に従事させること(1月29日陰性確認)。(4)煮物および炒め物の中心温度は温度を測定できる具材を3点以上測定すること。
栃木県保健環境センター
内藤秀樹 岡本その子 新堀精一
栃木県保健福祉部生活衛生課 大島 徹
栃木県県南健康福祉センター(栃木県県南保健所) 高橋律子 福田雄彦 池田幸子 横塚陽子 石橋邦子