スキー場の複数の飲食施設で同時発生した食中毒様事例−島根県

(Vol.24 p 164-165)

2003年2月15日〜20日に島根県西部のスキー場内の3飲食店が原因施設と推定されるノーウォーク様ウイルス(NLV, norovirus)による食中毒が発生したのでその概要を報告する。

事件の概要:2月20日、 スキー場管理者から2月17日に同施設を利用した1グループ5名が下痢、 発熱の症状を呈し、 医療機関を受診したとの連絡が管轄保健所にあった。翌21日、 他の複数の利用者グループにも同様の症状の者がいるとの情報を受けて関係自治体(中四国、 九州)に情報提供するとともに、 保健所に相談窓口を開設した旨公表し、 情報提供を呼びかけた。275名の情報が収集され、 症例定義(2月17日前後にスキー場を利用し、 摂食後12〜60時間の間に胃腸炎症状を呈した者)に合致した患者は152名に達した。

症例定義に合致した患者は14〜20日に発生が認められたが、 17日の発症率が最も高かった(図1)。主な症状は下痢(68%)、 発熱(59%)、 嘔吐(57%)、 腹痛(55%)であり、 平均潜伏時間は33.5時間であった。

検査対象および方法:患者便17検体、 飲食店従事者便8検体(有症者6検体、 無症者2検体)、 2月21日に採取されたスキー場の自己水源(2系統)原水各1検体、 飲食施設に供給される浄水3検体を対象にRT-PCR法でNLV遺伝子の検出を試みた。使用したプライマーはヒト由来の検体についてはCOG1F/G1SKR、 COG2F/G2SKR、 NV81/82・SM82、 Yuri22F/R、 環境検体については1st:COG1F/G1SKR-2nd:G1SKF/R、 1st:COG2F/G2SKR-2nd:G2SKF/R、 1st:35'/36-2nd:NV81/82・SM82、 1st:MR3/4-2nd:Yuri22F/Rである。さらに、 広島市衛生研究所で陽性となった1検体と岡山県環境保健センターで陽性となった5検体を分与いただき、 COG2F/G2SKRのPCR増幅産物についてダイレクトシークエンスで遺伝子配列を決定し、 相同性を比較した。

結果:患者17検体中11検体からNLVが検出された。陽性患者は別個の6グループで認められ、 スキー場利用日は2月15日〜17日、 利用施設(飲食店)も4カ所にわたっていた(表1)。さらに、 17日にスキー場を利用した広島市、 倉敷市、 熊本市、 山口県のグループからも管轄の衛生研究所の検査でNLVが検出された。一方、 従事者は5検体からNLVが検出された。これら従事者は複数の施設に及んでいた(表2)。水5検体からはNLVは検出されなかった。

COG2F/G2SKRで陽性となった患者11検体、 従事者4検体、 分与検体6検体のPCR増幅産物を用いてダイレクトシークエンスを行ったところ、 18検体がシークエンス可能であった。内訳はHu/NLV/Amsterdam類似株17株(表中"A"と表記)と他のクラスターに属する1株(表中"B" と表記)である。なお、 17株は比較した 290baseで99%一致した。また、 山口県環境保健研究センターからの情報提供で検出された8株のうち3株はAmsterdam 類似株とのことであった。

考察とまとめ:事件のあったスキー場は2つの谷沿いにそれぞれ滑走コース(以下右コースおよび左コース)を有し、 水道もそれぞれのコースごとに谷川を水源とした別系統の自家水道施設となっている。

場内の飲食店は11施設あり、 患者発生の最も多かった17日に営業していたのはこのうちの8施設であった。患者の聞き取り調査およびNLV検査の結果、 患者のほとんどは右コースにある3施設のいずれかを利用しており、 施設の状況調査から飲食物を介した感染しか考えられないことから、 この3施設を原因とした食中毒であると断定した。3施設はきわめて隣接しているが、 共通するメニューはなく、 共通の食材も一部の調味料のみであった。ただ、 従事者の中には2月10日〜17日に風邪症状あるいは胃腸炎症状を呈する者が複数認められた。したがって、 従事者によって汚染された食品を介しての発生の可能性が考えられるが、 同時に3施設での発生という特異性の原因は不明である。

また、 右コースの5施設は同じ水源の水道を使用していたが、 調査時点の塩素濃度はこの3施設を含む4施設で0.1ppm以下であり、 水が原因であったとも考えられるが、 同一水源を利用している他施設で患者発生がなく、 水からはNLVが検出されなかったことから断定する根拠に欠けた。

以上のことから感染源、 感染経路は不明であった。なお、 同スキー場は3年前にも食中毒様苦情を申し立てられており、 設備面、 衛生教育面の不備が予想された。

島根県のNLVの流行は例年同様2002年10、 11月をピークに2003年2月まで認められた。本事例が発生した西部地区では2月に6例のNLV genogroup IIを検出しており、 うち4例は本事例の原因ウイルスとほぼ同一の遺伝子配列であり、 この地域での流行株であったものと思われる。

貴重な検体、 情報を提供していただいた衛生研究所の諸先生に深謝します。

島根県保健環境科学研究所 飯塚節子 田原研司 板垣朝夫
島根県川本健康福祉センター 原田清志 黒崎守人

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