ウェルシュ菌を原因とする宿泊施設の食中毒事例−山形県

(Vol.24 p 166-166)

2003年3月、 山形県村山保健所管内の宿泊施設(旅館)においてウェルシュ菌を原因とする食中毒が発生した。またこの事例では、 同時にエンテロトキシンB産生黄色ブドウ球菌が検出されたのであわせて報告する。

3月11日(火)午後3時30分、 Y市内の医療機関より、 前日(10日)にK市内の旅館に宿泊した学生グループのうち、 下痢、 腹痛等の食中毒様症状を呈した患者1名を診察し、 患者の情報から他にも20数名が同様の症状を呈しているらしいとの連絡があった。

学生グループ76名の共通食は当該施設のみで、 50名が同様の症状を呈しており、 調査を進めた結果、 他に14グループ45名の利用者があり、 合計15グループ121名中、 7グループ59名の発症者(発症率49%)が確認された。このことより、 当該施設を食中毒原因施設と断定した。

主な症状は下痢(97%)、 腹痛(80%)であり、 平均潜伏期間は11時間であった。嘔気、 嘔吐はそれぞれ15%、 3%あった。

検査材料は、 患者便8検体、 従業員便6検体、 従業員手指ふきとり6検体、 調理器具のふきとり16検体および食材12検体を検査した。食材の内容は、 マグロ刺身、 カニつめ、 ホタルイカ、 道明寺、 竹の子寿し、 手長エビ、 イチゴムース、 うるいおひたし、 あさつきおひたし、 めかぶ、 ゴマ豆腐、 むきエビであった。

検査は、 赤痢菌、 腸炎ビブリオ、 サルモネラ属菌、 黄色ブドウ球菌、 病原性大腸菌、 セレウス菌、 ウエルシュ菌およびカンピロバクターの細菌8項目について実施した。

ウェルシュ菌の検査は、 検体をカナマイシン加CW寒天培地に直接塗抹後、 35℃24時間嫌気培養し、 卵黄反応陽性の検体について、 発育したコロニーをかきとってPCR法でエンテロトキシン産生遺伝子の有無を確認した。遺伝子が確認された検体について、 菌の分離を行った。分離菌株についてはHobbs型の血清型別(デンカ生研)を実施した。

患者および従業員の便からは、 RPLA法(デンカ生研)を用いてウェルシュ菌エンテロトキシンの検出も並行して行った。

便中のエンテロトキシン陽性にもかかわらず直接分離培養で陰性であった検体については、 便をクックドミートの増菌培地で35℃24時間培養後に、 カナマイシン加CW寒天培地で分離培養を行った。

表1に示したように、 便から直接ウェルシュ菌のエンテロトキシンの検査を行ったところ、 患者6検体、 従業員1検体からエントロトキシンが検出された。PCR法によるウェルシュ菌エンテロトキシン産生遺伝子の検索では患者7検体、 従業員1検体が陽性であった。このうち3検体からウエルシュ菌が分離された。分離菌のHobbs型はいずれも3型であった。

検査当初は、 患者、 従業員便、 ふき取りおよび食材10検体から黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンBの産生遺伝子が検出されたため黄色ブドウ球菌による食中毒を想定した。しかし、 患者便からは1検体しか黄色ブドウ球菌が分離されず、 さらにこの患者から分離された株は、 パルスフィールド・ゲル電気泳動(山形県衛生研究所で実施)の結果、 従業員便、 ふきとりおよび食材9検体から分離された株と遺伝子パターンが異なることがわかった。また、 患者便のエンテロトキシンBについて検査したが検出されなかった。他の検査項目については陰性であった。

これらの結果や患者の症状、 潜伏期間等なども含めて総合的に判断した結果、 今回の食中毒はウェルシュ菌によるものと断定された。

山形県村山保健所
高橋智子 萬年美穂子 青木敏也 赤塚 淳 植松すみ子 細矢恵美子 阿彦忠之
山形県衛生研究所

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