飲食店を原因とした細菌性赤痢集団感染事例−岐阜県

(Vol.24 p 187-188)

2002年5月下旬〜6月上旬にかけ、 岐阜県の飛騨地域で飲食店を原因とした細菌性赤痢(Shigella flexneri 3a)の集団感染事例が発生したのでその概要を報告する。

2002年5月29日、 高山市内の2つの医療機関から細菌性赤痢患者計4名の発生の届け出が飛騨地域保健所にあった。患者の発生はその後も続き、 6月10日までに総数24名、 うち15名が入院する集団発生となった()。患者の症状は、 下痢が23名(96%)にみられ平均13.9回、 発熱が22名(92%)にみられ平均38.6℃であった。これら以外の症状は少なく、 嘔吐および頭痛が各1名であった。

保健所による調査の結果、 5月31日の時点で患者11名のうち7名が同一の飲食店において食事をしているか、 または同施設で調理されたサンドイッチ等を喫食していることが判明した。さらに、 同施設の従業員1名(図、 No.1)が5月20日頃から下痢等の症状を呈し、 5月31日細菌性赤痢と診断されたことから、 保健所は当該飲食店を原因とした食中毒と断定し、 同日同施設を営業禁止処分とした。保健所は、 患者家族等(132名)および施設従業員(5名)の検便を実施するとともに、 施設調理場のふきとり(14検体)および食材(13検体)の検査を実施した。その結果、 患者家族等から6名、 施設従業員から1名(図、 No.2)の患者が確認されたが、 ふきとりおよび食材等からは赤痢菌は検出されなかった。また、 この初発患者を含め施設従業員に海外渡航歴はなく、 同施設への汚染経路は不明であった。

24名の患者から分離された赤痢菌は、 生化学性状検査(TSI培地、 LIM培地、 VP培地、 シモンズのクエン酸塩培地、 クリステンゼンのクエン酸塩培地および細菌同定キット)および血清型別検査の成績からS. flexneri 3aと同定された。またPCR法により、 赤痢菌および腸管侵入性大腸菌病原因子遺伝子のinv Eおよびipa H両遺伝子の保有が確認された。パルスフィールド・ゲル電気泳動は、 制限酵素Xba Iを使用し、 国立感染症研究所の方法で実施した。その結果、 24株の泳動パターンはすべて一致した。

本事例は、 初発患者が飲食店の従業員であったこと、 さらにこの従業員が下痢等を発症し、 病院を受診しながらも調理業務を続けたことが原因となり、 飲食物の汚染を介した集団食中毒を引き起こしたと考えられた。とくに、 この従業員の当該施設における担当業務が、 野菜洗浄、 サンドイッチの下準備および食器洗浄であったことが多くの感染者を発生させた原因になったと考えられた。ただし今回の事例では、 食中毒患者の喫食日が5月22日と23日の2日間に集中していた()ことから、 この2日間のみに食品の汚染があったと推測された。この従業員の発症から飲食店が営業禁止となる5月31日までには約10日間あり、 また2人目の従業員も5月24日には発症していたことを考えると、 本事例が24名という患者数で終息できたことは、 むしろ幸いであったと思われる。

本事例では、 当該施設で喫食していない患者が5名いたが、 患者No.22〜24の3名は食中毒患者の家族であり、 家庭内での二次感染と考えられた。患者No.3は、 当該施設に隣接し、 さらに本事例の患者が受診している医療機関に通院していたこと、 また患者No.21もその家族がこの医療機関に勤務していたことから、 何らかの接触感染があったものと考えられた。しかし、 発生源となった飲食店従業員については、 S. flexneri 3aが国内での発生がまれな血清型であること、 本事例の発生がゴールデンウイーク直後であったこと、 さらに隣接する医療機関の患者や職員が同施設を多く利用していたことなどから、 海外旅行者からの二次感染が疑われたが感染経路を解明することはできなかった。

岐阜県保健環境研究所
白木 豊 板垣道代 山田万希子 所 光男
岐阜県飛騨地域保健所
高野裕光 圓田辰吉 小林香夫 出口一樹

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る