疫学的リンクが考えられた海外渡航歴のないShigella sonnei 感染の2事例−長野県

(Vol.24 p 188-188)

2002(平成14)年12月10日に駒ヶ根市内の女性(71歳)が赤痢(Shigella sonnei )と診断された。患者は海外渡航歴はなく、 海外旅行者との接触も認められなかった。喫食調査の結果、 生食用ではない韓国産の生カキを生で喫食していたことが判明した。2001(平成13)年11月以降西日本を中心に韓国産生カキによるS. sonnei 食中毒発生があった。本事例はその関連性が注目され、 さらに当該患者は入院先で院内感染の原因と疑われた事例でもあったので、 概要を報告する。

初発患者の家族は7名であったが、 発症者は患者1名のみであった。喫食調査では、 12月1日に患者のみがカキを生食しており、 他の家族は12月4日に当該カキを加熱調理(鍋物)後に喫食していた。患者は12月4日に下痢、 嘔吐等の症状で発症し、 翌日医療機関を受診し、 12月10日にS. sonnei による赤痢と判明した。患者等が喫食したカキ残品は残っておらず、 容器も既に洗浄済みであった。患者家族、 生カキ容器のふきとりおよび患者宅の井戸水から赤痢菌の検出を試みたが、 いずれも陰性であった。当該韓国産生カキをリパックした他県の加工業者の従事者、 施設のふきとりおよびカキからも赤痢菌は検出されなかった。患者が喫食したものと同じ日に輸入されたカキの残品が山口県にあり、 国立医薬品食品衛生研究所で検査したが、 陰性であった。患者分離菌株と2001年に分離された韓国産カキ事例由来菌株とのパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターン(Xba I)では5〜6本相違していた。これらのことから、 本事例は韓国産カキとの関連性は低く、 感染経路は解明できなかった。

当該患者は12月5日から医療機関に入院した。同日から同じ病室に脳梗塞で入院していた女性(44歳)が12月9日から下痢、 発熱等で発症し、 検査の結果S. sonnei が検出された。両者から検出されたS. sonnei のPFGEパターンはほぼ一致しており、 さらに両者の入院状況等を考慮すると、 院内感染が強く示唆された。なお、 患者家族、 他の入院患者および医療機関職員等からは赤痢菌は検出されず、 二次感染への拡大は防止された。

長野県衛生公害研究所 村松紘一 笠原ひとみ
長野県佐久保健所   関 映子

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