岡山市では、 2002年6月よりHIV検査の機会に併せて無料匿名の性感染症検査を行うこととした。この目的の一つは、 医療機関を受診しにくい若年者等に、 早期発見と性行動におけるリスクを振り返る機会を提供することである。近年増加が懸念される性器クラミジア感染症や、 女性における淋菌感染症は症状も少なく、 若年者では疑った際の受診も少ない1)。もう一つの目的は、 本検査利用者の性感染症やリスクの現状を学校、 医療機関、 企業に提供し、 学校教育や診察の場での患者指導に活用していただくことである。検査開始の案内は、 広報誌、 広報ラジオ、 新聞などとともにポスターを作成し、 学校、 医療機関に掲示を依頼した。
岡山市保健所でHIV検査に加えて行った性感染症検査の項目は、 クラミジア抗原検査(女性は膣分泌物自己採取検体、 男性は尿検体をPCR検査)、 クラミジア抗体検査(女性のみ、 血清IgM、 IgG)、 淋菌抗原検査(女性のみ、 膣分泌物自己採取検体をPCR検査)、 梅毒検査である。
受検者の概要:検査を開始した2002年度のHIVおよび性感染症検査受検者406名に関して報告する。受検者数は図1に示したように、 性感染症検査の導入後増加した。前年比で増加が大きかったのは、 女性10代144%、 20代205%、 男性30歳以上134%であった。
HIV検査陽性の者はいなかった。性感染症検査の結果、 クラミジア抗原陽性率は女性13%、 男性4.7%、 女性の抗体陽性率は34%、 また、 淋菌抗原陽性率(女性のみ)は3.6%、 梅毒陽性率は0.7%であった。年代別に見ると、 クラミジア抗原陽性率は年代が低いほど高く、 10代18%、 20代12%、 30代7%であり、 過去の罹患状況を反映するクラミジア抗体陽性率は10代〜30代までほぼ同じで、 順に30%、 33%、 27%であった。淋菌抗原陽性率も、 10代7%、 20代2%、 30代0%、 40代14%(1/7、 陽性者1名)と、 いずれも若年者における性感染症罹患率の高さを示していた。
一方、 利用者に結果説明後に検査への感想や性行動に関するアンケートを依頼しており、 有効回答率は91%であった。岡山市保健所で受けた理由で多かったのは、 匿名42%(男39%、 女45%)、 職場学校から近い40%(男48%、 女32%)、 人に勧められた25%(男13%、 女37%)、 無料24%(男21%、 女28%)などであった。人に勧められたという理由は、 女性では3分の1にのぼるが、 男性では少ない。岡山市保健所では、 利用者に、 性交渉の相手や知人友人へ、 この検査の利用を勧めるように依頼しており、 勧める、 話してみたいとの回答が、 性交渉の相手には64%、 知人/友人には74%と高率であるが、 女性では実際に依頼の効果があったと思われる。
このアンケート結果から、 受検者の性行動でのリスクを検討した。過去1年間の性交渉の相手数が2人以上は、 男で52%、 女で46%とおよそ半数、 10人以上が男5%、 女6%であった。淋菌あるいはクラミジア抗原陽性の女性22名では、 過去1年の性交渉の相手数が2人以上が73%、 10人以上が9%と、 性行動が活発であった。また、 受検者におけるコンドームの使用状況は、 全く使用しないが20%、 時々使用が48%で、 いつも使用しているとの回答は26%に留まった。さらに、 過去の性感染症の罹患経験を聞くと、 28%があると答え、 女性で35%と3分の1以上に、 男性で21%と約5分の1に罹患経験があった。そして、 これら罹患経験のある者におけるコンドームの使用状況は、 全く使用しないが29%と、 むしろ受検者全体より高率であり、 性感染症の罹患経験はリスク低減に充分活かされていないと推定される。岡山市保健所では、 男性用および女性用コンドームの使用指導や、 試用を目的とした配布を行うとともに、 検査結果説明後のカウンセリングの充実を行っている。
結論:HIV検査に併せた性感染症検査の導入により、 若年女性の利用者が増え、 感染リスクの高い利用者も増加したと考えられる。また、 これら利用者の性感染症早期発見と、 今後の感染予防に役立つ技術/知識を得る機会を提供できた。さらに、 以上のような検査結果や性行動リスクのまとめを、 A4版4ページのパンフレットとして作成し、 学校、 医療機関、 企業等に配付しており、 この活用によってそれぞれの場での性感染症、 HIV 感染症の予防活動の進展を勧めている。
文 献
1)中瀬克己ら、 性感染症発生動向調査の評価、 「効果的な感染症発生動向調査のための国および県の発生動向調査の方法論の開発に関する研究」平成14年度報告書
岡山市保健所 中瀬克己