HIV感染症診断の検査手順の見直し

(Vol.24 p 207-208)

従来、 HIV感染症の診断には、 スクリーニング検査で陽性検体については必ずウエスタンブロット(WB)法、 またはごくまれではあるがIFA法で確認検査を実施して、 陽性の場合は感染、 陰性の場合は非感染と診断している。なお、 判定保留および陰性でもハイリスクグループの最終診断は1〜3カ月後に再検査をする。しかし、 HIV感染症は検査法のみならず、 治療に関しても日進月歩であり、 検査結果が出るまでの日数や感度など、 問題の指摘があり、 従来の検査手順では現状にそぐわなくなったため、 新しい検査手順が必要になった。

1.高感度なスクリーニング法が採用されるようになり、 WBの感度が追いつかない。すなわち、 スクリーニング検査で陽性の感染初期検体がWB法で陰性または判定保留になる。

2.P24抗原と抗体を同時に検出するスクリーニング検査法(一般的に第4世代キットと呼ぶ)が市販された。

3.HIV-1 RNA定量法であるアンプリコアHIV-1モニターv1.5が、 2002(平成14)年度からは感染診断(確認検査)にも保険適応できるようになった(保険点数620点)。これまではアンプリコアHIV-1モニターv1.5はHIV-1 RNA定量法としてHIV感染者の経過観察のみの適応であった。

4.HIV-1 RNA定量法はWB法と併せて実施した場合には、 それぞれを保険に算定することができる(WB法の保険点数370点)。

スクリーニング検査法と確認検査法の感度の比較:同一感染者を最初に採血した日を0日とし、 数日間隔で採血したシリーズ血清数本からなる市販のセロコンバーションパネルを用いた感度比較によれば、 PRB936はEIAなどHIV抗体検査キット(第3世代キット)では19日目から、 第4世代キットでは12日目から抗体が検出でき、 両方法には1週間の検出日の違いが見られる(表1)。核酸増幅法(NAT)は第4世代キットよりも1週間早く、 最初の採血日から5日目に検出している。一方、 WBは第3世代よりも数日遅れて21日目から陽性となる。PRB937でも同様な結果であり(表2)、 NATは第4世代キットよりも1週間早く、 第4世代キットはELISA(EIA)や凝集法(PA)よりも1週間早く検出する。簡易法のイムノクロマト(ICA )はEIAやPAよりもやや感度が低く、 21日目の検体は検出しない。WBは21日目の検体も陰性である。したがって、 高感度なスクリーニング法を採用しても確認検査のWBで陰性になり、 感染者を見逃してしまうことになる。

「病原体検査マニュアル」推奨HIV 検査手順:核酸増幅定量法が保険適応されたことにより、 現行の検査手順の一部を改良し、 エイズ専門病院だけでなく、 一般の病院や診療所でも通用する検査手順を作成した(図1)。第4世代でスクリーニングすることを考慮し、 NATとWBで確認する方法である。国立感染症研究所、 都道府県の衛生研究所などで使用している「病原体検査マニュアル」(近日中に改訂版の出版予定)に掲載した。作成に当たっては従来の手順を大幅に変更せず、 検査手順がシンプルでエイズの専門家以外の医療関係者にも理解しやすいことを心がけた。スクリーニング検査は感度が十分高い検査法を使うことは当然である。スクリーニングで拾えなければ確認検査は行われないので、 当然NATは実施されないことになる。

確認検査法としてのWBと核酸増幅法にはそれぞれ長短がある。WBは特異性は高いが感度が低い。核酸増幅法は高感度であるがコンタミネーション、 プライマーのミスマッチやウイルス量が少ない場合などで偽陽性や偽陰性が起きる。核酸増幅法を用いればWBは不必要ではないかとの意見もある。しかし、 WBは各ウイルス遺伝子構成成分の抗体に対して反応するので、 多数の情報によって判断できる利点がある。両者の特徴を理解して採用することが肝心である。従来、 WBによる確認検体を少なくする目的でスクリーニング試薬を2つ以上準備して、 最初のスクリーニングで陽性の場合、 他のスクリーニング試薬で検査する方法が行われてきたが、 この場合2つの試薬が同等の感度でなければならない。第4世代などの高感度なキットで同等の感度の試薬を2つ以上準備できない場合は、 確認法として核酸増幅法が保険適応されたので、 省くのもやむを得ない。なお、 アンプリコアHIV-1モニターv1.5には標準法と高感度法があるが、 かつて標準法は感度が低いために確認検査として保険が認められなかった理由を考えると、 高感度法の方が安全であろう。しかし、 抗体出現前の感染初期はウイルス量が多いので、 標準法でも良いとの考えもある。

なお、 核酸増幅法にはコンタミネーションや劣化を避けるためにスクリーニングで陽性になった検体を使わずに、 再採血するか、 あらかじめ小分けにして冷蔵または冷凍保存した検体が望ましい。

国立感染症研究所・エイズ研究センター 吉原なみ子

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