医療機関で大腸菌が赤痢菌(Shigella boydii )と誤同定された事例−滋賀県

(Vol.24 p 210-210)

2003年5月、 滋賀県内の某医療機関の医師から、 「女児患者から赤痢菌(S. boydii )が分離されたことから赤痢患者と診断した」旨、 所管保健所に届けられた。当所では、 感染症法に基づく2・3類感染症が発生した場合、 患者との接触者にかかわる疫学解析や細菌学的疫学解析に供試するため、 従来から医療機関で協力が得られる範囲で分離株の収集に努めてきているところであり、 今回も濃厚接触者である家族の検便とともに分離株が搬入された。

当所では、 搬入後直ちに提供株の確認検査を進めたところ、 一次鑑別(TSI、 LIM等)において赤痢菌の一般的性状とは異なる、 「TSIではガス産生、 LIMでは運動性陽性」という所見(ただし、 S. flexneri は5%の頻度でガス産生株あり、 坂崎利一、 田村和満著:Shigella 属、 腸内細菌、 下巻、 p.232、 1992)が認められたので、 速やかにその旨を所管保健所に連絡した。さらに同定をすすめた結果、 当該菌株は生化学的性状から大腸菌と同定された。一方、 当該菌株は病原大腸菌診断用抗血清には凝集を示さなかったが、 赤痢菌診断用抗血清に対する凝集反応ではS. boydii 2型に凝集を示した。赤痢菌は、 抗原的に大腸菌、 とくに組織侵入性大腸菌と密接な類縁関係にあることが知られているので、 このことが起こりえると考えられたが、 念のためPCR法によって組織侵入性遺伝子(invE )についても調べたが、 陰性であった。これらの結果から、 通常の大腸菌と同定した。当所で確認した性状を表1に示す。

今回の誤同定を招いた原因としては、 当該医療機関ではTSI、 LIM等の一次鑑別をしていなかったことから、 ガス産生性および運動性の性状が確認されていなかったこと、 さらに分離株は赤痢菌の診断血清に凝集を示したことから、 市販同定キットの可能性の高い菌種名が赤痢菌であったという所見に依存し過ぎてしまったこと、 などが推測された。一次鑑別(運動性、 ガス産生の確認)や、 可能性のある菌種の追加鑑別を行っていれば誤同定は避けられたことと考えられる。

現在、 種々の簡易同定キットが市販され、 そのことが菌種同定の迅速化につながっており、 我々も使用してきている。しかし、 一方で、 簡易同定キットの結果に頼り切ってしまう恐れは今後も起こりえないことでもない。今回の事例は、 我々関係者に対して、 再度基本を大事にすることを教えられた教訓であると考えている。

滋賀県立衛生環境センター 林 賢一 石川和彦 辻 元宏

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