下痢症患者から分離されたMorganella morganii が赤痢菌と誤同定された事例−千葉県

(Vol.24 p 210-211)

赤痢は「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」で2類感染症として規定されており、 発生時には、 関係法令に基づき蔓延防止措置がとられ、 感染者は就業制限がかけられるなど、 社会的影響の大きい感染症である。今回、 下痢症患者から分離されたMorganella morganii が赤痢菌と誤同定された事例に遭遇したので概要を報告する。

患者は、 腹痛を発症した翌日から水溶性下痢(10回程度)および血便(1回)、 38℃台の発熱を呈したため医療機関を受診した。医療機関での細菌検査において、 SS培地上に無色透明のコロニーが出現し、 グラム染色、 SIM培地での運動性試験、 簡易同定キットにより同定が行われた。当該菌はグラム陰性桿菌で、 簡易同定キットでShigella spp.と同定されたが、 SIM培地で若干の運動性が認められ、 赤痢菌と同定するには疑わしい結果であったにもかかわらず、 赤痢菌型別用免疫血清のB多価に凝集が認められたため、 S. flexneri と決定され、 管轄保健所に対し発生届けがなされた。発生届けを受けた保健所では、 菌株を当所に搬入するとともに、 蔓延防止措置を開始した。

搬入された菌株を当所で検査したところ、 LIM培地の一夜培養で穿刺線周辺部に発育が認められ、 運動性陽性が確認されたため、 至急保健所に連絡を取るとともに、 アピ20EおよびBBLクリスタルを使用して同定したところ、 いずれでもMorganella morganii (アピでの%id = 99.6、 BBLクリスタルでのconfidence value=0.99303)と同定された。また、 赤痢菌型別用免疫血清のB多価には凝集が認められたが、 型血清のI〜VIには凝集が認められず、 群血清の(3)4群に凝集が認められた。当所での簡易同定キットによる性状と医療機関での性状を比較してみると、 オルニチン・デカルボシキラーゼ、 ウレアーゼ、 フェニルアラニン・デアミナーゼといったM. morganii を同定するために重要な性状が医療機関の結果ではすべて陰性となっていた。医療機関で使用している同定キットは、 キットに付属の接種針で被検菌を接種するようになっており、 被検菌が均一に接種できていなかったことが疑われた。

今回の誤同定は、 細菌の同定は生化学性状により行う、 という大原則を、 医療機関の検査担当が熟知しておらずに血清反応の結果で同定してしまったことが要因であった。また、 同定キットの取り扱いの習熟不足も誘因としてあげられる。感染症の原因菌の誤同定は、 今回の事例のように本来不要であるはずの保健所による蔓延防止措置が行われるため、 人権侵害に当たる恐れもある。確実な同定の実施、 および疑わしい場合では疑似患者として扱う、 といった慎重な対応が今後望まれる。また、 M. morganii は重篤な下痢症患者から検出された報告が他にもあり(Senior BWら, J. Med. Microbiol. 21:139-144)、 今後同様の事例が起こらないように、 検査関係者に注意喚起が必要だと思われる。

千葉県衛生研究所 横山栄二 内村眞佐子

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る