ユッケによるdiffuse outbreakの可能性が疑われたO157事例−埼玉県
(Vol.24 p 214-214)

埼玉県では、 2002(平成14年)度から腸管出血性大腸菌(EHEC)によるdiffuse outbreakの早期探知を目的とした疫学調査事業を展開している。EHEC患者発生時に患者等に記入依頼した喫食歴を中心とする調査票の解析結果とパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンの解析結果から、 患者間の共通性を探るものである。

2003(平成15)年7月14日、 県内保健所に1名のEHEC O157:H7 Stx1&2(以下O157)患者発生報告があった。喫食調査の結果、 患者は東京都内の焼肉店で7月5日(発症4日前)にユッケを喫食していたため、 東京都へ当該焼肉店への調査が依頼された。東京都の調査では、 同日焼肉店を利用した118名(ユッケの提供数9)からは、 患者グループ4名を含め他の発症者は確認されなかった。しかし、 東京都からの情報として、 都内で発生した別のO157患者が、 埼玉県の患者とは別の焼肉店(利用者73名)だが、 7月5日にユッケを喫食(ユッケの提供数4)しており、 2つの店舗のユッケ肉の仕入れ先が埼玉県内の同一食肉販売業者であることが明らかとなった。所轄の保健所で食肉販売業者の調査を実施したところ、 当該ユッケ肉と同一ロット材料は既に存在せず、 また、 生食用として表示、 販売されたものではなかった。

細菌検査は、 参考品としてユッケ原料肉2検体(モモ、 ヒレ各1)、 施設の拭き取り3検体及び従事者便5検体のO157等を実施したが、 すべてO157陰性であった。埼玉県の患者から分離されたO157菌株は、 当所において、 パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)が実施され、 他の分離菌株との比較解析が行われていた。一方、 東京都の患者から分離されたO157菌株も、 東京都立健康安全研究センターでPFGEが実施されていたため、 画像のEメールによる情報交換及び菌株の交換によるDNAパターンの比較解析が行われた。その結果、 それぞれの分離株のXba I処理によるPFGEパターンが一致した()。

確認された患者は2名のみであり、 食品からはO157は分離されていないが、 以上の結果は、 ユッケを原因食品とするO157 diffuse outbreakの可能性を示唆するものである。O157 diffuse outbreakの拡大防止や未然防止のためには、 複数の患者が発生して、 diffuse outbreak として認知される以前、 すなわち可能性の段階での対応が重要である。1名の患者発生時の調査として、 本事例における段階までは調査を進める必要があると考える。本事例は、 行政管轄を越えた協力体制が円滑に進められたものと言える。

埼玉県衛生研究所 

感染症疫学情報担当

食品媒介感染症担当

臨床微生物担当

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