おたふくかぜワクチン接種後に無菌性髄膜炎を発症した患者からのムンプスウイルス分離−宮城県

(Vol.24 p 296-297)

宮城県において、 おたふくかぜワクチン接種後に無菌性髄膜炎を発症した患者の髄液から、 ワクチン株由来のムンプスウイルスを分離したので報告する。

患者は5歳9カ月の男児で、 頭蓋骨縫合早期癒合症、 多発奇形、 発達遅滞の障害があり、 発達遅滞の集中療育のため2003(平成15)年5月1日より拓桃医療療育センターに入所した。6月5日におたふくかぜワクチンを接種後、 6月21日に39.5℃の発熱を呈したが、 抗菌薬・輸液投与等の治療により6月23日解熱した。しかし、 6月27日に再度発熱し、 39〜40℃台の高熱が続いた。血清・髄液検査の結果等から無菌性髄膜炎が疑われ、 7月2日療育センターより病原体検査が依頼された。

なお、 7月2日に採取された血液および髄液の臨床検査結果は以下のとおりである。

血清:白血球 9,300/μl(好中球 60%、 リンパ球 37%、 単球 3%)、 CRP 0.10mg/dl。髄液:細胞 2,392/mm3 (リンパ球 100%)、 蛋白 36.48mg/dl、 糖 33mg/dl、 C1 112Eqg/l、 LDH 23U/l。

ウイルス分離は7月2日採取の咽頭ぬぐい液および髄液について、 4種類の細胞(HEp-2、 LLC-MK2、 RD-18S、 Vero)を用いて行った。3代まで盲継代した結果、 髄液を接種したLLC-MK2細胞にのみシンシチウムを形成する細胞変性効果(CPE)が確認された。

CPE陽性培養液上清よりRNAを抽出し、 ムンプスウイルスのP領域を増幅するプライマー(MVP-95、 MVP-105)およびSH領域を増幅するプライマー(SH-Eco RI、 SH-Pst I)を用いて2種類のRT-PCRを行った結果、 P領域、 SH領域ともにムンプスウイルスに特異的な増幅産物(233bpおよび549bp)が確認された。さらにSH領域の塩基配列(316bp)をダイレクトシークエンス法により決定し、 ワクチン株と比較した結果、 星野株と100%一致した。このことから、 今回の無菌性髄膜炎の発症は、 ワクチン株のムンプスウイルスが原因と考えられた。

わが国では、 1993年4月にMMR ワクチンの使用を中止し、 単味おたふくかぜワクチンに移行したのを機にワクチン副反応による無菌性髄膜炎発生が激減した。現在の発生率は1万〜12万人に1人とされ、 自然罹患時の発生率(1〜10%)と比べて大変少ない頻度とされている。しかし、 今回の症例から、 ワクチン副反応特に無菌性髄膜炎は、 稀ではあるが依然として存在しており、 ワクチン接種後の経過観察が重要と思われた。

なお、 北里生命科学研究所においても患者検体についてウイルス分離およびRT-PCR、 RFLPを行ったところ、 同様に星野株であったとの結果報告であった。

宮城県保健環境センター
菊地奈穂子 山木紀彦 後藤郁男 植木 洋 沖村容子 秋山和夫
宮城県拓桃医療療育センター(現 国立療養所西多賀病院) 小林康子

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