学生寮における腸管出血性大腸菌O157集団感染事例−岐阜県

(Vol.24 p 297-297)

2003年5月、 岐阜県の飛騨地域の2つの学生寮において、 腸管出血性大腸菌O157による15名の集団感染が発生したので、 その概要を報告する。

2003年5月16日、 飛騨地域の医療機関からO157感染症患者1名の発生届けが飛騨地域保健所にあった。患者は20歳の学生で5月8日から下痢、 腹痛の症状があり、 12日に医療機関を受診していた。患者は学生寮(A寮)に入居していたため、 保健所はA寮の寮生(41名)および食堂の調理師(2名)の健康調査および検便、 また食堂内のふきとり検査(10検体)を実施した。その結果、 寮生に複数の有症者が確認され、 寮生の11名からO157が検出された。このため検便検査の対象者を拡大し、 寮生が通う大学の学生および職員、 また大学に隣接する附属幼稚園の園児および職員等、 計1,247名の検便を実施した()。また、 ふきとり検査は大学校内にある3つの学生寮の食堂(各6検体)、 A寮のトイレ、 風呂等(10検体)について実施した。その結果、 5月24日に学生3名からO157が検出され、 菌陽性者数は計15名となった()。ふきとり検体からは菌は検出されなかった。この3名の学生は、 いずれも同大学のB寮の寮生であった。このためさらにB寮の食堂、 トイレ等(12検体)についてもふきとり検査を実施したが、 菌は検出されなかった。なおA寮、 B寮ともに検食の保存はなく、 食品の検査は実施できなかった。検便によって検出された菌陽性者14名のうち9名は無症状で、 残りの5名にみられた下痢、 腹痛、 軟便の症状も軽度であり、 届け出時までには消失していた。5月25日以降には新たな菌陽性者はなく、 6月9日に感染者全員の陰性化が確認された。

検出された15株は、 すべてO157:H7(VT2)であった。また、 PCRによりeaeA およびhlyA 遺伝子の保有が確認された。制限酵素Xba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の成績では、 14株が同一のパターンを示し、 残り1株も1バンドのみの違いであった。

保健所では、 感染防止対策として、 寮、 大学、 附属幼稚園等における消毒、 職員に対する衛生指導、 AおよびB寮の食堂の営業自粛指導等を行った。特にA寮においては、 保健所職員による衛生講習会を開催し、 日常生活における感染予防および注意事項に関しての指導を行った。

今回発生のあった2つの寮は、 ともに大学が学生専用に契約した民間アパートで、 経営者は異なり、 距離的にも約5km離れていた。保健所では感染経路の究明のため、 2つの寮に共通する要因を中心に、 寮生の喫食状況、 行動、 環境等の調査を行ったが、 寮生同士に交友関係はなく、 2つの寮に直接的な接点は見出せなかった。このため、 感染は大学を介して拡大したと考えられたが、 2つの寮の寮生以外からは菌は検出されなかった()。本事例は、 感染者の多くが無症状保菌者であり、 また有症者の症状も初発患者を除いて軽度であった。さらに、 感染者がすべて20歳前後の学生であったことから、 世代的に積極的に医療機関を受診することが少なく、 このため保健所が感染を探知した時には、 発生からかなり日数が経っていたと考えられた。その中にあって、 共同生活を行っている寮においては、 特に感染が拡大、 長期化し、 このことが今回の寮生からのみの菌の検出という検査結果につながったものと推測された。

岐阜県保健環境研究所 白木 豊 板垣道代 山田万希子 所 光男
岐阜県飛騨地域保健所 高野裕光 圓田辰吉 小林香夫 出口一樹

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