長崎市内の医療機関を受診した呼吸器症状を呈する乳幼児4名からAH3型インフルエンザウイルスを分離したので報告する。
患者は長崎市内の同じ地区に居住する生後8カ月男児および3〜4歳女児の計4名の乳幼児で、 発症日は2003年9月11日〜17日であった。患児は、 38〜40℃の発熱、 咽頭発赤、 咽頭痛、 関節痛、 上気道炎などを呈しており、 いずれもインフルエンザと診断された。受診時に採取された咽頭ぬぐい液を迅速キット[ラピット・ビューインフルエンザA/B(住友バイオ)]で検査したところ、 4名中2名はA型インフルエンザ陽性であった。発症後1〜2病日に採取された4名の咽頭ぬぐい液をMDCK細胞に接種した。接種後3日目から明瞭な細胞変性効果(CPE)が観察され、 この培養上清については0.5%七面鳥赤血球を用いてHA試験を行ったところ、 HA価はそれぞれ128であった。
国立感染症研究所から分与された2002/03シーズン用インフルエンザウイルス同定キットを用いてHI試験を行った結果、 抗血清A/New Caledonia/20/99(H1N1)、 A/Moscow/13/98(H1N1)、 B/Shandong(山東)/7/97、 B/Hiroshima(広島)/23/2001 (ホモ価、 各2,560、 640、 320、 640)に対してはHI価<10もしくは<20であったが、 A/Panama/2007/99(H3N2) (ホモ価2,560)に対しては4株ともHI価640を示した。この結果から、 今回分離されたウイルスはAH3型インフルエンザウイルスであると同定された。なお、 4名中2名は昨シーズンにインフルエンザワクチンを2回接種していた。
疫学調査により家族内全員の感染は認められたが、 海外渡航歴および外国人との接触もなく、 患児が通園している幼稚園においても集団感染は確認されていないことから、 感染原因については不明である。
今年のインフルエンザシーズン中には重症急性呼吸器症候群(SARS)の再流行も懸念されるため、 例年よりも早くインフルエンザウイルスが分離されたことは、 SARSと鑑別を要する疾患のひとつであるだけに、 今後の動向に注意する必要があると思われる。
長崎県衛生公害研究所 平野 学 中村まき子 吉川 亮 原 健志