2002/03シーズンのノロウイルスの施設内流行事例−兵庫県

(Vol.24 p 319-320)

2002/03シーズンに兵庫県(神戸市、姫路市を除く)でウイルスが原因と考えられる集団嘔吐下痢症が28件発生し、このうち主要な患者発生や原因施設が県内にあった事例は25件であった。25事例中15件は食品を介した感染と考えられ、このうちの10事例ではカキが喫食メニューに含まれており、その3事例のカキ残品からはノロウイルスが検出された。他の5事例では、1事例でカニが原因食と推定された以外は、原因食品を特定することはできなかった。これらのすべての事例で患者や食品からノロウイルスが検出され、いずれも本ウイルスによる食中毒であることが確認された。一方、小学校や特別養護老人ホームなど特定の施設内でのノロウイルスによる集団嘔吐下痢症が8事例あった()。

の事例1は知的障害者施設での発生で、居室は障害の軽重等によって3棟に区分されていた。重度障害者棟の1名が初発患者で、2002年11月18日に発症、19日には職員1名が、次いで20日には職員と入所者11名が発症し、この時点で患者は3棟すべてに拡がった。21日には職員を含めて最大の36名が発症し、22日は5名に減少したものの、23日には7名と再びピークを示した。その後の発症者数は漸減し、26日の2名を最後に発症者はみられなくなった。この施設ではウイルスの流行時点では、手洗いやうがいを強化したが、その間も給食は停止されなかった。

事例3は一般病院でのケースで、2003年1月30日に嘔吐や下痢を主徴とした患者が3階の病室に入院し31日には軽快退院した。2月1日にはこの患者と同室の1名と、2階の入院患者など計3名が同様の病状を呈し、その後は、5日をピークに4日〜12日にかけて職員を含めた54名が発症した。本施設の11名の調理従事者の2名も発症し、そのうちの1名と未発症の調理人1名からノロウイルスが検出された。しかし、2名の調理従事者の発症は流行が終息を迎えた10日であった。さらに、職員は病院給食を摂っておらず、患者によっては特別食が与えられているなど、そのメニューはまちまちであることから、給食を原因食とする食中毒は否定された。

事例5の特別養護老人ホームでは、2月26日に初発患者が発生、27日の発生はなかったものの28日から患者は徐々に増え、3月1日には最大の18名が発症した。その後は漸減し3月6日が最後の患者発生日となった。本施設では2階に1〜4人部屋が33室、1階にも同様に6室あり、発症時期は異なっていたが、患者は施設全体に及んでいた。本事例では、給食を食べていない職員やチューブ食の入居者が発症していること、調理従事者全員の検査ではウイルス陰性であったことや、患者発生が9日間にわたっているなど、給食などの共通食材を介した食中毒とは考えられなかった。

これらの事例を通覧すると、入所者に加えて職員の発症も多いことが明かとなった。療養施設などでは入所者の糞便処理がおろそかになりがちで、さらにこれを職員が代行するなど、密接に入所者と接することが、職員が感染しやすい原因と考えられる。

一方、PCR増幅したウイルスDNAの塩基配列は、同一施設内の流行株ではすべて同じであったが、8施設間では異なっていたことから、施設内ではウイルスは単一感染源から流行すると考えられた。このため、いったん施設内にノロウイルスが侵入すると、入所者間で感染するとともに、施設内を広範囲に移動する職員が、感染を拡大する一因になっていることが示唆された。事例1がこの典型的なケースと考えられ、この他に職員が施設外からウイルスを持ち込むことも危惧される。このようなノロウイルスの施設内流行を防止するには、入所者に衛生教育を行うとともに、職員の作業ごとの手洗い、ディスポーザブル手袋の着用や、その頻繁な交換が必要である。

兵庫県立健康環境科学研究センター 近平雅嗣 藤本嗣人 池野まり子 押部智宏

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