カキ加工所で生食、あるいは購入後に自宅で生食したカキや加熱調理済みカキを喫食した42名中38名がノロウイルスによる食中毒を発症した。この中には加熱調理済みのカキだけを喫食した患者もおり、加熱調理済みカキによる発症率は75%であった。
2003年2月2日〜3日に広島県方面へバス旅行をした、兵庫県内の地域グループ15名のうち11名が、2月4日〜7日に嘔吐、下痢、腹痛、軽度の発熱を主徴とする嘔吐下痢症を発症した。その後の兵庫県の健康福祉事務所による調査では、旅行参加者の家族や知人、バスの運転手も発症していることが明らかになった。これらの発症者に共通する食品は、旅行中に立ち寄ったカキ加工所で生食したカキと、そこで土産として購入し、自宅で喫食したカキであった。
試食または購入したカキはいずれも加熱調理用カキで、購入したカキは自宅で生食、フライ、焼カキ、ナベ、ムニエル、カキ丼、天ぷら等に調理し喫食されていた。発症者38名中26名は現地あるいは自宅で生食もしており、加熱調理済みカキのみを喫食したのは16名で、このうち12名が発症した。発症までの平均潜伏時間は42時間であった。検査の結果、患者糞便17検体中14検体、カキの残品5検体中5検体からノロウイルスが検出されたことから、カキを原因食品とする食中毒と特定された。
材料および方法:2月7日〜8日にかけて採取された患者糞便17検体、購入後自宅で保存されていたカキ残品5検体についてはRT-PCR法およびリアルタイムPCR法によりノロウイルス遺伝子を検出した。遺伝子型はリアルタイムPCR法で判定し、RT-PCR法で増幅したDNAについてダイレクトシーケンス法で塩基配列を決定した。
結果:食中毒細菌はすべての患者糞便およびカキ残品から検出されなかった。ノロウイルス遺伝子は、リアルタイムPCR法では17名の患者中14名が、5検体のカキ中5検体が陽性となった。患者から検出されたノロウイルスの遺伝子型はgenogroup(G) Iが2名、GIIが4名、8名からはGIとGIIが同時に検出された。カキではGIIが4検体、1検体からはGIとGIIが同時に検出された。NV系プライマーで増幅した10名の患者由来のノロウイルスのDNA(292塩基)から、6種類の塩基配列が確認された。
加熱調理済みカキだけを喫食した12名では、検査した6名中5名からノロウイルス遺伝子が検出されたことから、加熱調理済みカキからの感染が確認された。
まとめ:加熱調理済みのカキだけを喫食した16名のうちで発症者は12名と、高い発症率(75%)を示し、その喫食メニューはフライ、焼カキ、ナベ、ムニエル、カキ丼および天ぷらであった(表1)。このため、調理によってノロウイルスを不活化するには、十分な加熱が必要と思われた。
兵庫県立健康環境科学研究センター 池野まり子 押部智宏 近平雅嗣