昨年度厚生労働省に届けられた食中毒事例の病因物質別患者数は小型球形ウイルスが第1位で、実際にはそのほとんどがノロウイルスであるといえる。ノロウイルスによる食中毒の主な原因食材である生カキ(中でも生食用カキ)について、ノロウイルス汚染状況を調査した。
検査対象:2002年10月〜2003年4月採取の国内産生食用カキ 209ロット(パック詰めのものを1ロットとした)。
カキからのノロウイルス検出方法:1ロットにつき3個を個別に検査した。中腸腺を切り出し、超遠心で濃縮後、RNAを抽出し、ランダムプライマーを用いてcDNAを合成した。そのcDNAを、影山ら(J. Clin. Microbiol. 41: 1548-1557, 2003)の方法によりリアルタイムPCRでgenogroup (G)別に定量し、125コピー(実測値で10コピー)以上を陽性とした。また、カプシド領域の塩基配列を決定した。
ノロウイルス汚染状況:同一ロットのカキでも、陽性と陰性のものが混在しており、ロット中3検体すべてが陽性であったのは1ロット、2検体陽性のものが9ロット、1検体陽性のものが13ロットであった。このことから、検査は1ロット中複数個のカキについて行う必要があると考えられた。
GIまたはGIIで陽性を示したのは23/20911%)であった。GI陽性が12ロット、GII陽性が20ロットで、そのうち9ロットがGI、GIIともに陽性を示した。カキ1個あたり1,000コピー以上の高レベル汚染が12月〜2月に見られた(表1)。
また、検出されたgenotypeはGIが2タイプ、GIIが7タイプと多様であった。
考察およびまとめ:同一ロットのものであってもカキの個体により、ノロウイルス汚染は様々であった。このことから、各ロットのカキがウイルス学的に安全と判断される検査個数を明らかにしなければならないと考えている。
12〜3月採取の生食用カキの23/173(13%)からノロウイルスが検出された。この時期は生食用カキによる食中毒事例が多発しており、食中毒事例の発生とカキのノロウイルス汚染との関連性が強く示唆された。
カキによる食中毒防止には、生産者が出荷段階でウイルス検査を実施し、汚染カキを提供しないようにすることが重要であると考える。
本研究は、平成14年度厚生労働科学研究「食品中の微生物汚染状況の把握と安全性の評価に関する研究」により行われた。
山口県環境保健研究センター 西田知子
広島市衛生研究所 野田 衛
青森県環境保健センター 三上稔之
埼玉県衛生研究所 篠原美千代
大阪市環境科学研究所 春木孝祐
愛媛県立衛生環境研究所 大瀬戸光明
国立感染症研究所・感染症情報センター 加藤由美子 秋山美穂 西尾 治