わが国の輸入海産物は貝類14万トン、エビ類16万トンと膨大な量が輸入されている。これら食品のウイルス汚染状況は輸出国およびわが国においてもほとんど行われていない。そこで、主に東南アジアからの魚介類におけるウイルス汚染状況を明らかにすることを目的とし、生鮮魚介類からノロウイルス検出を行った。
材料と方法:2002年1月〜12月の間に、市場に搬入された輸入生鮮魚介類、中国産110件、韓国産87件、北朝鮮産26件、タスマニア産7件、インドネシア産4件、インド産2件、マレーシア、ミャンマー産各1件、計238件を用いた。貝類は中腸腺を、エビ類は腸管を取り出しホモジナイズした後、10%乳剤とし、10,000rpm 20min遠心後の上清を超遠心法またはポリエチレングリコールによる濃縮方法にて濃縮し、RNA抽出に用いた。RNA抽出はQIAamp Viral RNA Miniキット(QIAGEN)を用い、抽出RNAはDNaseI処理後、random hexamer(Amersham Pharmacia)を用いてSuper Script II RT8(Invitrogen)で逆転写し、cDNAを合成した。このcDNAを用いて、リアルタイムPCR法およびRT-PCR法でノロウイルスの検出を行った。リアルタイムPCR法のプライマーはgenogroup (G)IではCOG1F/COG1R 、GIIではCOG2F/COG2Rを用い、プローブはTaq Manプローブ(ABI)で、GIはRING1-TP(a) とRING1-TP(b) 、GII はRING2AL-TPを用いた。RT-PCR法はカプシド領域のプライマーを用いて行った。RT-PCR法で増幅されたPCR 産物はダイターミネーター法でダイレクトシークエンスを行い、塩基配列を決定した。
成績:輸入海産物 238件中36件(15%)からノロウイルスが検出された。国別では中国産110件中19件(17%)、韓国産87件中13件(15%)、北朝鮮産26件中4件(15%)からノロウイルスが検出された。例数の少なかったタスマニア、インドネシア、マレーシア、インド、ミャンマー産からは検出されなかった(表1)。月別では9月を除いたすべての月に採取された検体からノロウイルスが検出された。季節ごとでは12月〜2月が106件中21件(20%)、3月〜5月が45件中6件(13%)、6月〜8月が45件中4件(9%)、9月〜11月が42件中5件(12%)から検出された(表2)。リアルタイムPCR法により、15件から中腸腺1gあたり34〜8,185コピーのノロウイルスが検出され、100〜1,000コピー未満が8件、1,000コピー以上が6件、平均は2,100コピーであった。RT-PCR法により28件からノロウイルスが検出され、そのうちの8検体について遺伝子配列を決定したところ、8つのgenotypeが認められた。genotypeはGIでは中国産ウチムラサキガイ1件がMusgrove型とSindlesham型、中国産アサリ1件がSaitama KU19eGI型、韓国産アサリ1件がWinchester型、韓国産アカガイ1件はNorwalk (NV68)と異なっている株が認められた。GIIでは中国産ハマグリ1件がLordsdale型、1件がMexico型、中国産アサリ1件がMexicoと少し異なる株、中国産ウチムラサキガイ1件と韓国産アサリ1件は一致しFayettevilleと少し異なる株であった。これらの株は、われわれが調査した国内産カキ、集団発生患者便からの塩基配列と3株が100%一致し、4株が96%以上一致した。また、1株は日本での集団発生からは検出されていない株であった。
考察:輸入二枚貝によるノロウイルス食中毒事例が報告されており、本調査からも輸入魚介類を介してノロウイルスが侵入してきていることが示された。ノロウイルス感染による急性胃腸炎は主に冬季に発生することが知られているが、輸入魚介類からは冬季に限らずノロウイルスが検出され、さらに、検出された貝類からノロウイルスが1,000コピー/g以上のものも認められ、輸入魚介類が年間を通じて食中毒の原因食品となる可能性が示唆された。輸入魚介類を充分に加熱調理することが感染防止に必要であり、産地国に限らずハマグリ、アカガイ、アサリのノロウイルス汚染率が高く、これらの食品は特に注意することが重要である。輸入魚介類から検出されたノロウイルスでは国内で検出されていない株が認められ、輸入魚介類を介して諸外国から新たな株が侵入することがあると推察された。また、国内の株と同一な配列の株も認められ、これらの株のわが国での消長を今後追跡していく必要がある。
静岡県環境衛生科学研究所 杉枝正明
神奈川県衛生研究所 古屋由美子
愛媛県立衛生環境研究所 大瀬戸光明
兵庫県立健康環境科学研究センター 藤本嗣人
鹿児島県環境保健センター 新川奈緒美
千葉市環境保健研究所 田中俊光
国立感染症研究所 長谷川斐子 秋山美穂 西尾 治