冬季に流行する感染性胃腸炎の主な病原体は、小型球形ウイルス(SRSV)とロタウイルスであることはよく知られている(本月報Vol.19、No.11特集参照)。病原体サーベイランスによって、病原体定点等の医療機関の胃腸炎患者より採取された便検体から、全国の地方衛生研究所(地研)で検出されたSRSV、ロタウイルスなどの病原体の情報は、国立感染症研究所・感染症情報センターに報告されている。なかでもSRSVは、感染性胃腸炎あるいは食中毒の患者から年間1,000件を超える検出報告がある。SRSVは、検出方法と検査結果に応じて“SRSV”(電顕のみの検出)、“ノロウイルス genogroup不明”、“ノロウイルス genogroup I”、“ノロウイルス genogroup II”、“サポウイルス”のいずれかで報告されている。
感染性胃腸炎は、感染症発生動向調査で4類定点報告疾患(2003年11月5日からは新5類定点疾患に変更)として、全国約3,000の小児科定点医療機関から患者が報告されている。2002/03シーズン(2002年第36週〜2003年第35週)の感染性胃腸炎患者報告数の週別推移は、2002年第43週から増加し始め、第49週にピーク(1定点当たり12.4)を迎えた後、年末年始にかけていったん減少し、年明け第2週から再び増加して、第11週に再度ピーク(1定点当たり9.9)を示し、以後夏場にかけて減少した(図1)。
一方、同期間にSRSVは1,351件(ノロウイルス GII 902件、ノロウイルス GI 67件、ノロウイルス G不明298件、サポウイルス47件、SRSV 37件)、ロタウイルスは647件(A群595件、C群29件、群不明23件)の報告があった(病原微生物検出情報2003年10月1日現在報告数)。週別では、SRSVは第43週から増加し、第47週を最大ピーク(116件)として第50週にも報告数が 100件を超えるピークを示し、年末年始にかけていったん減少したが、2003年第2週から再び増加した。第8週に再度ピーク(57件)を形成した後、集団発生からの報告増加による小さなピークをいくつか示しながら減少した。ロタウイルスは2003年第3週より増加し、第10週のピーク(54件)前後にはSRSVの報告数を上回ったが、第12週以後はSRSVとほぼ同じ推移で減少した。
感染性胃腸炎患者報告数の推移と比較すると、年末の患者の増加はSRSV検出報告数の増加と対応しており、年明け以降の患者数の推移は、ロタウイルス検出報告数の推移とよく類似していた。近年のSRSVとロタウイルス検出報告数の推移は、それぞれ毎年ほぼ同様な推移をしていることから(SRSV:http://idsc.nih.go.jp/prompt/graph/sr3j.gif、ロタウイルス:http://idsc.nih.go.jp/prompt/graph/sr4j.gif参照)、冬季の感染性胃腸炎患者から検出される病原体は、シーズンの最初はSRSV、その後SRSVとロタウイルスの混合流行という形で、年を隔てて変化していることが示された。
SRSVの検出例は、食中毒患者からの検出報告や集団発生事例からの検出報告が含まれているため、年齢分布はそれらの報告数によって大きく影響を受ける。そのため、散発例に限定して2000〜2003年(2003年9月25日現在)に報告されたSRSV検出例の年齢分布を図2に示した。報告された2,056例中、最も多かったのは1歳で515例(26%)、次いで0歳362例(18%)、2歳241例(12%)、3歳154例(8%)と、以後年齢とともに少なくなるという傾向であった。10歳以上の高い年齢の占める割合が約12%と比較的大きいことも特徴的ではあるが、SRSVはロタウイルス同様乳幼児の胃腸炎の原因として重要な病原体である。
国立感染症研究所・感染症情報センター 齊藤剛仁 山下和予 岡部信彦