河川が感染源と推定されたレプトスピラ症の多発−沖縄県

(Vol.24 p 326-327)

レプトスピラ症は、病原性レプトスピラの感染によっておこる急性熱性感染症である。げっ歯類などの保菌動物の尿で汚染された水田や河川などにおいて主として経皮的に感染する。本症は感染症法の届け出対象疾病でなかったため患者数の実数は把握できていないが、現在、わが国での発生は稀である(2003年11月5日に感染症法の一部が改正施行され、レプトスピラ症は新4類対象疾患に追加された)。しかし、沖縄県においてはいまだに発生が見られ、1999年には八重山地域においてシーカヤックインストラクターなどの観光に関連した職種を中心に河川での感染例が多発した(http://idsc.nih.go.jp/iasr/21/246/dj2463.html参照)。今回は、2003年の夏季に沖縄本島北部地域の河川を主な感染源とするレプトスピラ症が多発したので概要を報告する。

県内4医療機関から8月2例、9月9例、10月7例、合計18例のレプトスピラ症を疑う症例の検査依頼が当研究所にあり、抗体検査および分離菌の同定検査を実施した。そのうち検査によりレプトスピラ症と判定した14症例の結果を表1に示した(2例陰性、2例検査中)。抗体検査が陽性であった12例のうちNo.3を除く11例は、ペア血清でLeptospira interrogans 血清型hebdomadisに有意な抗体価の上昇を認めた。同血清型は、沖縄県に分布する主要血清型であり、琉球大学の調査では、同地域で捕獲されたマングースから高率に分離されている。No.4は、autumnalis、hebdomadis、rachmatiの3血清型に抗体の上昇を認めた。医療機関における分離培養において、5症例からレプトスピラが分離された。検査によりNo.1、 8、11、14は、hebdomadis、No.4はautumnalis群であることが判明した。

陽性者の年齢は、10歳以下1名、10代8名、20代2名、30代2名、50代1名で、性別は男性13名、女性1名であった。主な臨床症状は、発熱(100%)、頭痛、筋肉痛(67%)、悪寒戦慄(42%)、眼球結膜充血、下痢(25%)等であった。また、Jarisch-Herxheimer反応が42%に認められた。これらの陽性患者14例中11例が7月下旬〜8月の間に沖縄本島北部の同一河川で余暇活動を行っていた。感染月日の明らかな5症例の潜伏期間は、8〜11日であった。同地域は豊かな自然に恵まれ、大小の清流とともに多種類の野生動物(保菌動物)が棲息している。保菌動物の尿中に排泄された病原性レプトスピラが、降雨により河川を汚染したことが感染の原因と推定されるが、なぜ今夏に患者が多発したのか、その要因については現在のところ不明である。

今回の事例が夏休みと相まって低年齢層に患者が多発したことから、県ではマスコミを通してレプトスピラ症予防について広報し、保健所では、地域住民や学校などの教育機関に対し、普及啓発を実施した。開発などにより自然が失われていく一方で、近年はエコツーリズムの浸透により、自然体験を目的に同地域を訪れる人が増加している。自然の大切さを実体験する上でエコツーリズムは重要であると思われるが、本症のような感染症があることを十分に認識しておく必要がある。

沖縄県衛生環境研究所
中村正治 平良勝也 久高 潤 糸数清正 安里龍二
沖縄県福祉保健部健康増進課 仲間秀人

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