名古屋空港に帰国した海外渡航者から2003年10月に1株のB型インフルエンザウイルスが分離されたので報告する。
症例は年齢45歳の男性で、2003(平成15)年10月10日〜25日にかけてフィリピンに渡航していた。帰国日の10月25日にインフルエンザ症状を発症し、名古屋空港検疫所で咽頭ぬぐい液を採取した。定法に従い検体処理しMDCK細胞に接種したところ、細胞変性効果(CPE)が観察された。
国立感染症研究所より2002/03シーズン用に分与された検査キットで0.5%ガチョウ赤血球を用いてHI試験を行ったところ、抗A/New Caledonia/20/99(H1N1)血清(ホモ価 160)、抗A/Moscow/13/98(H1N1)血清(ホモ価 320)、抗A/Panama/2007/99(H3N2)血清(ホモ価 320)および抗B/Shandong(山東)/7/97血清(ホモ価 160)では、いずれもHI価<10であったが、抗B/Hiroshima(広島)/23/2001 (ホモ価 160)に対してはHI価80であり、B型山形系統と考えられた。
さらに、HA遺伝子HA1領域の遺伝子解析を行い、アミノ酸配列を推定したところ、2001/02シーズンから出現しているB/Harbin/7/94から分岐したグループに属していた1)。
我々は1996年から継続して名古屋空港に到着する海外渡航者からのインフルエンザウイルス分離を試みており、非流行季の夏期にも海外からインフルエンザウイルスが侵入していることを報告している2)。また、2002年5月にはインドネシアへの海外渡航者からA/H1N2型インフルエンザウイルスも分離している。一方、海外においては2003年2月に香港でA/H5N1型、5月にベルギー、オランダでA/H7N7型トリインフルエンザウイルスのヒトへの感染事例が死者を含めて報告されている。このような高病原性鳥インフルエンザや、近い将来発生すると考えられている新型インフルエンザの侵入を迅速に把握するため、水際でのインフルエンザ監視活動を継続して行くことが重要と考えられる。
文 献
1)IASR 23(11): 279-287, 2002
2)Sato K et al., Epidemiol. Infect. 124: 507-514, 2000
愛知県衛生研究所 佐藤克彦 森下高行 榮 賢司
厚生労働省名古屋検疫所名古屋空港検疫所支所 仲田康男