AH3型インフルエンザウイルスで認められた七面鳥血球凝集能の変化について(続報)

(Vol.24 p 324-325)

我々は以前に、特定のAH3型ウイルスの七面鳥の血球凝集能が継代によって変化する現象を報告した(IASR Vol.24、217-218、2003) 。しかし、その後の検討によりこの血球凝集性の変化は、継代によるウイルスの変化ではなく、血球の由来する七面鳥の個体差であることが判明したので、前回の報告内容を訂正するとともに、新たに判明した七面鳥の個体差による血球凝集性の違いに関する知見を報告する。

前回の報告では、A/Akita(秋田)/14/2003やA/Akita(秋田)/32/2003の継代初期のウイルスの七面鳥血球を用いた際に得られる血球凝集力価が、モルモット血球を用いた際のそれよりも明らかに低く、一代継代が増すことによって七面鳥血球とモルモット血球に対する凝集能の差が少なくなると報告した。しかしその後、同じ継代歴のウイルスの冷凍、冷蔵保存サンプルを用いた再検で、異なる時期に購入した七面鳥血球を用いて凝集試験を行ったところ、既報の結果とは異なることが判明した。さらに、同じ血球を用いて保存期間と保存条件(冷凍、冷蔵)による凝集力価の変動を調べたところ、ウイルス回収後1週間の範囲では血球凝集価に大きな変化がないことが確認された。これらの観察結果から、異なる時期に納品された七面鳥血球間でウイルス凝集能に違いがあることが示唆されたため、同一品種、同一環境で飼育された6羽の七面鳥からそれぞれ別々に採血した血球(表1:TA〜TF)およびモルモット血球(GPRC)を用いて、血球凝集試験を行った。

A/Akita/14/2003、A/Akita(秋田)/20/2003、A/Akita/32/2003の3株はGPRCを用いた際の凝集価が64倍以上あったにもかかわらず、TBの血球を凝集しなかった。また、これらウイルスはTA、TCに対する凝集価も低くかった。A/Akita/14/2003のTD、TFを用いた凝集価はGPRCでの凝集価の1/2であり、TEを用いた凝集価は1/8であった。A/Akita/20/2003、A/Akita/32/2003の場合も同様に、TD、TE、TFを用いた凝集価はGPRCを用いた場合より低めであったが、TA、TB、TCを用いた際よりも明らかに高い値を示した。一方で、A/Guangzhou(広州)/1046/2003はどの個体に由来する血球に対しても同様の反応性を示していた。その他のウイルスもどの血球ともほぼ同様の凝集価を示す中で、TBに対する凝集価は低い傾向を示していた。

以上の結果から、2002/03インフルエンザシーズンに分離されたAH3型ウイルスの一部に、特定の個体由来の七面鳥赤血球との反応性が著しく低下しているものが存在していることが明らかとなった。このことは、HI試験の際の4HA単位の抗原量が、血球のロットによって大きく異なることを意味しており、HI試験の精度に影響を及ぼすと考えられる。今回観察されたような株による凝集能の違いが起こる原因については現時点では不明である。今後当室ではインフルエンザウイルスのHI試験の精度管理の1つとして、TD、TE、TFのように、比較的どのウイルスとも反応性の良い七面鳥個体から採血した血球を選択して、HI試験を行うこととした。

国立感染症研究所ウイルス第3部第1室
西藤岳彦 斎藤利憲 伊東玲子 中矢陽子 小渕正次 小田切孝人 田代眞人

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る