小学校で発生したノロウイルスによる急性胃腸炎の集団事例−岩手県
(Vol.24 p 323-324)

沿岸北部のN村立N小学校で、2003年10月に発生した急性胃腸炎の集団発生事例についてその概要を報告する。

10月19日、管内の医療機関から久慈保健所に、腹痛、嘔吐等の胃腸炎症状を呈するN小学校の児童約30名を診察した旨連絡があった。保健所で調査を行ったところ、19日時点でN小学校では、児童368名中90名が、教職員23名中5名が胃腸炎を発症していた。N村の小学校、中学校は各1校ずつで、両校ともN村学校給食センターの給食を実施しているが、中学校では胃腸炎症状を呈しているものはなかった。N小学校の水道はN村の簡易水道で、他の施設にも供給されている。に発症日別の患者発生状況を示した。20日以降N小学校における患者の発生は減少し、発生は18日、19日に集中していた。一方、患者の家族に二次感染と思われる患者の発生が認められた。なお、感染症発生動向調査の患者情報によれば、当該地区ではこの集団事例の発生以前においては感染性胃腸炎の患者発生報告はほとんどなく、感染性胃腸炎の流行は把握されていなかった。

微生物学的検査は患者便、給食の検食および水道水について実施した。細菌検査においては、胃腸炎の原因と考えられる病原細菌は検出されず、ウイルス検査において患者24名中15名の糞便からノロウイルス genogroup IIが検出された。検出された株はすべて遺伝子的に同一の株であった。以上から、胃腸炎の原因はノロウイルスと判断された。なお、ノロウイルス検査は電顕法とRT-PCR法によったが、RT-PCRはAndoらのプライマーを用い反応を行い、増幅された産物をダイレクトシークエンスし、反応の特異性の確認と株間の塩基配列の比較を行った。

今回のノロウイルスによる急性胃腸炎の集団発生は、患者の発生が2日間に集中した単一曝露型の発生であったことから、当初、学校給食か水道を原因とする食中毒ではないかと疑われた。しかし、給食については、小学校と同じく学校給食センターによる給食を行っている中学校では二次感染を除いては患者の発生がなく、検食からノロウイルスは検出されなかった。また、小学校の水道は広い範囲に供給されている村の簡易水道であるが、小学校の関係者以外に患者の発生は確認されなかった。これらのことから、感染経路については特定することはできなかった。

岩手県環境保健研究センター
佐藤直人 高橋朱実 藤井伸一郎 佐藤卓 齋藤幸一 田澤光正
岩手県久慈保健所   嶋 弘一 阿部 伸 橋本 功

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