メタロβ-ラクタマーゼ(MBL)は活性中心に亜鉛を持ち、クラスBに分類されるβ-ラクタマーゼである。MBL産生菌はカルバペネム系薬剤に耐性を示すことから、臨床上問題となっている。MBLには1991年に日本から報告されたIMP型と、1999年にイタリアから報告されたVIM型の2種類が知られている。IMP型にはIMP-1〜少なくともIMP-13までのバリアント、VIM型にはVIM-1〜VIM-4までのバリアントの存在が報告されている。IMP型MBL産生菌の国内における分離例は多数報告されているのに対して、VIM型MBL産生菌の国内における分離報告はほとんどない。
我々は、秋田県内の医療機関において分離されたMBL産生疑い株の中に、8株のVIM-2型MBL遺伝子(bla VIM-2)保有株を同定したので報告する。
IMP型、およびVIM型MBL遺伝子検出のために、各型のバリアントのシークエンスを比較して特定した保存領域を標的としたコンセンサスプライマー(Antimicrobial Agents and Chemotherapy, in press)を設計した(表1)。
2001年9月〜2003年10月までに、市販メタロβ- ラクタマーゼ確認用ディスク(メタロβ-ラクタマーゼSMA・栄研)を使用した試験によりMBL産生が疑われた分離株42株が確認検査のために医療機関から送付された。これらの株についてコンセンサスプライマーを使用したPCRによりIMP型MBL遺伝子(bla IMP)とVIM型MBL遺伝子(bla VIM)を検索したところ、24株がbla IMP陽性、8株がbla VIM陽性であった。さらに、型別用プライマーを使用したPCR、およびbla VIMのダイレクトシークエンスによりbla VIMの型別を実施した結果、8株はすべてVIM-2型MBL遺伝子(bla VIM-2)を保有していることが判明した。bla IMPの型別は実施しなかった。
8株のbla VIM-2保有株の一覧とMICを表2に示した。これらの8株はすべてPseudomonas aeruginosa であり、同一の医療機関において分離された。また、いずれもニューキノロン剤であるCPFXとTFLXに感受性であった。M β-7株のインテグロンをシークエンスした結果、M β-7株は機能不明のORF1 、bla VIM-2、aacA4 (aminoglycoside acetyl transferase)をそれぞれコードするgene casetteを組みこんだclass 1インテグロンを保有すること(GenBank accession No. AY29333)、さらに、M β-2、6、9株も同一構造のclass 1インテグロンを保有することが判明した。他4株の遺伝子構造は未検討である。
gene casetteは異なるインテグロンに伝播することが知られており、また、インテグロン自体がトランスポゾンの一部となり、異なる菌種間に伝播する場合があることも指摘されている。このため、今後bla VIM-2の伝播・侵淫が懸念される。MBL産生菌は薬剤耐性緑膿菌感染症の原因菌の一つにもなると考えられることから、臨床上も重要な薬剤耐性菌の一つであり、また、院内感染の原因菌としても重要であると考えられるが、国内におけるbla VIM保有株の分布実態はほとんど明らかとなっていない。今後、MBL産生菌を検索する際にはbla IMP保有株だけではなく、bla VIM保有株も検索対象とし、国内における分布実態を解明することが必要と考えられる。
秋田県衛生科学研究所
八柳 潤 齊藤志保子 佐藤晴美 原田誠三郎 鈴木紀行