山形県内で11月に小流行したAH3型インフルエンザ
(Vol.25 p 9-9)

山形県最上地区内の新庄市で、2003年11月6日〜11月8日の東京都内・横浜修学旅行を終えて戻った73人の中学生のうち、数人からインフルエンザ感染が校内に拡がり、2次、3次感染によって地域内に小流行が発生した事例を報告する()。初発の中学生患者からは、AH3型が1株分離された。山形県における今シーズンのインフルエンザ患者報告は、それまで全く無く、初の分離であり、疫学調査から首都圏への修学旅行中に感染した可能性が考えられた。

初発の患者は新庄市に住む13歳の女子で、11月9日、10日はインフルエンザ様疾患患者との出会いが無く、11月11日に頭痛、発熱、咽頭痛、咽頭発赤、咳、鼻炎などの典型的なインフルエンザ症状を伴って発症し、12日にS医院(小児科・インフルエンザ定点医)を受診した。受診時、体温は39.6℃あり、インフルエンザが疑われたため、咽頭ぬぐい液を採取し、インフルエンザ迅速診断キット(ラピットビューインフルエンザA/B:住友製薬)で検査したところ、陽性(当キットではA、Bの鑑別は不可)であった。この女子にインフルエンザワクチン接種歴は無かった。

そこで再採取した咽頭ぬぐい液をMDCK細胞に接種し、細胞変性効果(CPE)の観察された培養液を、1%モルモット赤血球を用いてHA試験を行った結果、HA価は32であった。次に、国立感染症研究所分与の2003/04シーズン用インフルエンザウイルス同定キットを用いたHI試験では、A/Kumamoto(熊本)/102/2002(H3N2)、A/Panama/2007/99(H3N2)に対しHI価 320(ホモ価 640)、160(ホモ価 160)を示し、AH1型、B型に対しては<10であった。この結果、今回分離されたインフルエンザウイルスはAH3型であると同定された。

S医院ではその後、11月14日、15日に修学旅行帰りの中学生2人、中学生から感染したとみられる高校生1人がインフルエンザと診断され、翌週(11月17日〜23日)には2次、3次感染により、新庄市とその近隣の町村の小学生・幼稚園児を中心に6人、翌々週(11月24日〜30日)には32人の患者(このうち1人はワクチン接種歴あり)がインフルエンザと診断された。

一方、この中学校の校医をしているK医院(内科・胃腸科,インフルエンザ定点外)には、11月12日に修学旅行の生徒1人がインフルエンザ症状で受診し、インフルエンザ迅速診断キット(キャピリア:日本BD)により、A型が検出された。その後11月17日〜25日までの間に2次、3次感染により、同校の中学生16人、同地域の幼稚園児5人、小学生3人、高校生4人、成人2人がこのキットでA型と診断された。このうち1人にはワクチン接種歴があり、接種後3日目に発症した。この中学校内のインフルエンザ感染状況をみると、最初、修学旅行から戻った学年の生徒73人中4人が罹患した後、他の学年にも感染が拡がり、11月13日〜26日までの間に計27人のインフルエンザ患者が発生した。

12月1日には、インフルエンザの小流行している新庄市を、球技大会で訪れた村山地区内の小学校より、大会に参加した高学年の生徒3、4人から感染が拡がったと考えられるインフルエンザ様疾患の集団発生(患者数47人)が報告された。さらに12月1日〜12月4日までに、最上地区内の中学校2校・小学校1校から集団発生(患者数合計202人)の報告があった。

また、初発例のAH3型分離に続き、新庄市の保育所・幼稚園児・小中学生から12月1日までに採取されたインフルエンザ散発例の臨床検体(咽頭ぬぐい液)よりAH3型が12株、さらに新庄市周辺の町の小学生・高校生から11月30日までに採取された散発例の検体よりAH3型が4株分離同定された。

インフルエンザは重症急性呼吸器症候群(SARS)との鑑別を要する疾患であるから、今後の発生動向にも充分留意して取り掛かる必要があると考える。

山形県衛生研究所 溝口二郎 菅野頴一
三條医院     三條加奈子
こくの医院    穀野真一郎

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