1.はじめに
厚生労働省の施設等機関の一つである検疫所においては、国際保健規則に準拠した検疫法に基づく業務と、海外からの輸入食品の安全性の確保を目的とした食品衛生法に基づく輸入食品監視業務の両方を担っている。本稿では前者に関して説明するとともに、先般施行された改正検疫法により強化されたデング熱の検査・診断体制についてご紹介したい。
2.検疫所の業務等
検疫所は全国の国際海港、空港において、本所13、支所14、および出張所80、計107カ所設置されており、媒介動物の検査を含めた感染症の検査は本所、支所の検査担当部署が検査項目に応じ実施している。
さらに、高度な検査を目的とし検査部門の拠点として、横浜検疫所および神戸検疫所に輸入食品・検疫検査センターが設置されている。
海外からのゲート地域(いわゆるボーダー)でターゲットとしている「検疫感染症」は、1類感染症のエボラ出血熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、ペスト、2類感染症のコレラ、4類感染症の黄熱に、今回の感染症法、検疫法の一部改正により、重症急性呼吸器症候群(SARS)、痘そう、デング熱、マラリアが加わった。
また、これらの検疫感染症とは別に、媒介動物対策を実施する感染症として「検疫感染症に準ずる感染症」(腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群、日本脳炎、ウエストナイル熱)が指定されている。
検疫所において検疫法に基づき実施されている業務をまとめると、以下のとおりである。
(1)検疫業務:海外から検疫感染症およびその他の国民の健康上、重大な影響を及ぼす感染症の国内侵入を防止する。
1)感染症患者の有無を検診し、検疫感染症患者等を発見した場合には、隔離、停留、消毒などの措置を実施する。
2)検疫感染症の媒介動物や船舶航空機に搭載されている貨物についても、その病原体の有無を検査し、必要に応じ駆除、消却等の防疫措置を実施する。
(2)港湾衛生業務:検疫感染症および検疫感染症に準ずる感染症の媒介動物の侵入や国内での定着を防止するため、船舶や航空機について調査を行い、海港や空港の一定区域の衛生状態を調査し、必要に応じ防疫措置を実施する。
(3)申請業務
1)予防接種:海外渡航者に対して、検疫感染症である黄熱、コレラ、ペストおよび海外で多く発生し、感染する危険性のあるジフテリア、A型肝炎、破傷風、狂犬病、ポリオ、日本脳炎、麻しんの10種類の感染症の予防接種を実施し、その証明書を発給する。
2)病原体の有無の検査:海外渡航者等からの申請に基づき、検疫感染症、その他政令で定めた感染症等計18種類に関する診察および病原体の有無の検査を実施し、その証明書を発給する。
3)船舶の国際航行に必要な証明書の発給:船舶が国際航行を行う際に必要な「ねずみ族の駆除に関する証明書」(国際保健規則で規定)について、申請に基づき検査を行いその証明書を発給する。
(4)感染症情報の収集・提供:海外における感染症の発生状況等の情報を収集し、整理、分析、加工を行い、海外渡航者等への感染防止に係る情報提供を行う。
3.検疫所におけるデング熱診断体制
(1)媒介蚊のデング熱検査体制:検疫所では、以前から港湾衛生業務として、検疫感染症の媒介動物(蚊、ネズミ)の侵入調査を実施しているが、デング熱については、1998(平成10)年の検疫法の一部改正により、検疫感染症に準ずる感染症として政令指定されたことから、その媒介蚊調査も港湾衛生業務に加えられた。また、2001(平成13)年からは、調査で採集した蚊のフラビウイルス(黄熱、デング熱、日本脳炎、ウエストナイル熱)保有の有無をPCR法により検査できる体制が整い、現在も実施しているところである。全国の主要な検疫所で採集された蚊は、種の同定を実施した後、輸入食品・検疫検査センターに送付し、ウイルス遺伝子の有無を確認する。検査の結果、陽性の場合には、調査の拡大、駆除、周辺地域の労働者等の健康調査等が実施されることとなる。
(2)ヒトのデング熱診断体制:デング熱のヒトの検査・診断については、今回の法律改正前までは、申請業務として申請者が手数料を納めて検査を受ける項目として位置づけられており、入国時に検疫官が実施する診察・検査の対象となる検疫感染症とは規定されていなかった。
しかしながら、デング熱はかつて本邦でも流行していた感染症であり、媒介蚊も国内に多く生息する。患者についても、毎年、数十名の輸入例(近年は50名を超えている)が報告されており、ボーダーでの検査の実施が望まれたため、デング熱の流行地域からの帰国者等で発熱等の症状を呈した者については、本人の希望により、一部の検疫所で検査を実施してきた。
法律改正により、人→人感染はないが、入国時に検疫所において検査を実施し、患者の早期発見と、患者を介して媒介動物への病原体の侵入を防止するために、政令で指定できる検疫感染症が新たに規定された。デング熱はマラリアとともにこれに指定され、法律に基づく検査が可能となった。また、このことは、将来的にウエストナイル熱等の患者の輸入例が問題となった場合に、直ちに行政対応できる基盤が整備されたことにもなる。
検疫感染症に指定されたことにより、デング熱の流行地域から潜伏期間の14日以内に日本に入国する者で、入国時に発熱等の症状を申告する者に対しては、医師の診察を行い、デング熱が疑われる場合には、採血を実施し、簡易診断キットにより血中特異抗体の有無を確認する。また、発熱初期の抗体未上昇期における患者の検出のために、さらにPCR検査を実施することとしている。PCR検査陽性検体については、ウイルス分離、型別等の検査を輸入食品・検疫検査センターにおいて実施することとなる。患者に関する情報は、検疫法に基づき、居住地を管轄する都道府県知事等に通知される。
4.おわりに
本稿において、検疫所の業務についても触れさせて頂き、感謝致します。これに関して幅広く皆様にご理解頂き、検疫機関と国内防疫機関との連携がより強化されることを望み、稿を終えたいと思います。
厚生労働省医薬食品局食品安全部
企画情報課検疫所業務管理室 鎌倉和政