デング熱罹患後急性散在性脳脊髄炎を発症した症例

(Vol.25 p 32-33)

我々は、デング熱に罹患後、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を発症した症例を経験した。

症例は58歳の日本人男性、1999年中頃よりブラジルに滞在していた。2000年1月15日より39℃台の発熱があり、1月20日近医入院となる。血小板減少、軽度の肝障害、血清抗デング熱IgM 抗体陽性を認め、古典型デング熱と診断される。入院後発熱は改善し1月27日以降解熱したが、膀胱直腸障害と下肢の筋力低下が1月24日頃より出現し徐々に進行した。1月28日の髄液所見では、細胞数の軽度増加(21cells/ul)、タンパクの軽度上昇(89mg/ml)を認めた。2月7日からは両眼の視力低下が出現し、数日で指数弁程度に増悪した。精査のため2月25日帰国し、当院入院となる。

当院入院時、意識は清明であったが、下肢は完全対麻痺の状態で膀胱直腸障害を認めた。下肢の温痛覚、触覚、深部腱反射は消失していた。上肢および脳神経には異常なく、眼底鏡検査も異常を認めなかった。血液検査所見では特記すべき異常は認めなかった。血清デング熱抗体はIgG、IgMともに陽性であることを確認した。2月25日のMRIでは脳に異常はなかったが、T2強調画像(造影+)にて不規則な散在性に高信号な領域をTh7-Th11に認め、脱髄病変と考えられた()。またTh8椎体に圧迫骨折を認められたが、デング熱との関連は不明であった。

本症例の特徴的な臨床経過およびMRI所見と、神経症状を説明し得る他の疾患が考えられないことから、本症例はADEMと診断した。急性期を過ぎていたが、神経所見の改善を期待して、3月1日よりmethylpredonisoloneのパルス療法(1,000mg/日、3日間)を3コース行った。3コース終了時点でMRIの脊髄病変は消失し、杖歩行可能な程度に下肢対麻痺は改善し視力も改善したが、膀胱直腸障害については回復し得なかった。

文献上これまでデング熱の神経系の合併症としてADEMの報告はなかったが、途上国に多い感染症であり、診断技術の問題に起因するものと思われる。流行地で画像診断が普及すれば同様な症例が見つかってくるものと考えられ、このような症例を診療した際には早期にMRIで診断し、機能的予後改善のため早期に副腎皮質ホルモンの投与が必要である。

 文 献
Yamamoto Y., et al., J. Infect. Chemother 8: 175-177, 2002

東京大学医科学研究所 中村哲也

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