世界におけるデング熱・デング出血熱

(Vol.25 p 33-34)

1.デング熱・デング出血熱の流行状況

デングウイルスは熱帯・亜熱帯のほとんどの国に存在する。世界保健機関(WHO)の推計では全世界で25〜30億人がデング流行地で生活しており、年間2,000万人の感染者が発生している。特に東南アジア、南アジア、中南米では大きな流行を繰り返している(表1)。感染症法施行後の特記すべき流行としては、ブラジルにおける2001年、2002年の大流行である。また、台湾における流行(2002、2003年)とハワイにおける60年ぶりの流行(2001〜2002年)は、わが国にとってはそれぞれ重要な事例であったと思われる。

台湾における流行は、デングウイルスの侵淫地域の拡大を示す一例である。2002年に発生した2型による流行では、患者数は15,000人を超え、過去最大の流行となり、その流行の中心は高雄、屏東、台南の台湾南部であった。台北市で発生した患者は、海外からの輸入症例や台湾の流行地域を訪問した症例であった。台湾では2003年もSARSが沈静化した後、デング熱が流行した。

一方、米国ハワイ州における流行は、タヒチとのダンスチームの交流の結果、タヒチで感染したマウイ島の住民が持ち帰ったウイルス(1型)による60年ぶりの流行であった。日本においてはデング熱が1942〜1945年にかけて西日本の諸都市で流行したが、同年代にハワイ州でもデング熱の流行があった。その後、ハワイ州でもわが国同様にデング熱の流行はなかったわけである。今回のこの流行では117例のデング熱患者が発生した。117例中88例がマウイ島であり、25例がオアフ島で、4例がカウアイ島で発生した(図1)。カウアイ島の4例はいずれもマウイ島からの輸入症例であったが、オアフ島の場合は、マウイ島からの輸入症例からウイルスが侵入・定着し、流行が発生したものであった。これらの島では、ネッタイシマカは生息しておらず、ヒトスジシマカによって媒介された流行であった。ハワイ諸島の中でネッタイシマカが生息するハワイ島では、今回デング熱の流行はみられなかった。この流行は2002年3月には終息し、その後は流行をみていない。

東南アジアでは、タイ、ベトナム、インドネシアで毎年患者数が1万人を超す大きな流行がおこっている。また、南アジアのスリランカ、バングラデシュ、インドでも小流行が起きている。日本人旅行者が増加している南太平洋オセアニア地域ではフィジー、オーストラリア、ニューカレドニア、ミクロネシア、サモア、トンガ、バヌアツなどで近年デング熱が流行している。

ブラジルでは2001年、2002年に大流行が起こっており、患者数がそれぞれ41万人、78万人を超える大流行となった。その他、南米ではベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ニカラグアなどで毎年流行が起きている。また、中米のメキシコでの流行も小規模なものではない。2003年、メキシコでは同じフラビウイルス属のウエストナイルウイルスによるウエストナイル熱患者も発生しており、デング熱の流行地であるメキシコで、両疾患がどのような発生動向を示すのか注意しておく必要がある。

2.ワクチン開発

このように世界的に大きな流行を起こし、侵淫地域を拡げているデングウイルスに対してワクチン開発が進められている。4つの型(デングウイルス1型〜4型)すべてに対して高い中和抗体を誘導するワクチンを開発するという考えから、デングウイルス1型、2型、3型、4型それぞれに対するワクチンを作製し、それを混合し4価のワクチンとしたものが開発されつつある。現在までヒトにおいて第1相、第2相試験がなされたものとして、デングウイルス1型、2型、3型、4型から連続継代により弱毒株を作製し、混合した弱毒生ワクチンがある。これまでのところ重篤な副反応は観察されていない。中和抗体誘導に関しては、ほとんどの接種者において4つの型すべてに対して高い中和抗体を誘導するためには2度の接種が必要であるというデータが示されている。

また、黄熱ワクチン17D株のpreM-E遺伝子をデングウイルス1〜4型それぞれのウイルスのpreM-E遺伝子と置き換え、4種類の黄熱-デングキメラウイルスを作製し混合した、4価黄熱-デングキメラワクチンが開発されている。黄熱-デング2型キメラワクチンについては第1相試験が行われ重篤な副反応は観察されていない。

さらに、デングウイルス1〜4型の3'末端の30塩基を削除することによって弱毒化させワクチンとして用いる試みも進められている。近い将来第3相試験において有効性が検討されるであろうが、どの国において行うか、どのようにワクチンを評価するか(デング熱患者の減少を調べるか、デング出血熱患者の減少を調べるか)はまだ決定されていない。また、デングワクチンを接種されたグループにおいて将来デング出血熱の発生が増加しないことを確認する必要があるが、これに関してもワクチン接種後何年間観察することが必要であるかについても結論は出されていない。

国立感染症研究所・ウイルス第一部 高崎智彦 倉根一郎

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