修学旅行生に発生したStreptococcus pyogenes による集団感染事例

(Vol.25 p 42-43)

A群溶血性レンサ球菌感染症は11月頃〜4月頃までの時期に多発することが知られている。また過去には、気温の高い時期に、飲食物を介した集団咽頭炎の報告が散見される。今回我々も夏季に発生した集団事例について調査する機会を得たので、その概要を報告する。

事件の概要:患者は、2003年9月8日〜11日までの予定で、S県から修学旅行に来ていた生徒等で、3組86名と教師等10名であった。8日は新幹線等による移動、東京に到着後バスにて2施設の見学をして、宿泊施設へ。9日と10日はグループに分かれての研修予定であったが、9月8日の夜から96名のうち66名が発症し()、12名が病院に入院した。症状別患者数は、発熱(36.9〜39.4℃)62名、咽頭痛65名、頭痛38名、咳12名、関節痛10名などであった。発症時刻は9月8日22時1名で、9日午前8名、午後16名、10日午前24名、午後12名、11日午前2名、午後1名、12日午前1名、不明1名であり、10日午前を中心とする1峰性の患者発症パターンであった。病院におけるA群溶血性レンサ球菌の簡易検査では、検査を実施した39名中36名が陽性であった。

当初、患者の発症が9月9日夜〜10日の朝方に集中していたため、感染症および食中毒の両面から調査が進められた。なお、他の宿泊グループのなかには発症者はいなかった。

検査材料・方法:入院患者の咽頭ぬぐい液12検体、宿泊施設の調理従事者の咽頭ぬぐい液4検体、保存検食7検体、調理場のふきとり10検体について、血液寒天培地を用いて、直接およびSEB培地(ニッスイ)による選択増菌した後、塗抹し37℃24時間培養した。血液寒天培地上でβ溶血環を示したコロニーについて、アピストレップ20(bio Merieux)で生化学的性状を確認し同定を行い、ストレプトコッカス群別キット「ユニブルー」(オクソイド社)で群を決定した。T型は、T型別用免疫血清(デンカ生研)を使用して型別した。

結果:当センターにおける検査で、患者の咽頭ぬぐい液12検体中10検体からStreptococcus pyogenes T28型(発熱性毒素B+C産生)が検出された。宿泊施設の調理従事者4名の咽頭ぬぐい液、保存検食7検体、調理場のふきとり10検体からS. pyogenes は検出されなかった。

当該宿泊施設の調理従事者の咽頭および保存検食から菌は検出されず、他の宿泊グループからも発症報告はなかったことから、宿泊施設での食中毒は否定されたが、発症者数が各組ほぼ同程度であったこと、9〜10日に集中した一峰性の患者発生パターンであったことから、本事例は単一曝露による集団感染の可能性が高いと考えられた。

東京都健康安全研究センター
遠藤美代子 奥野ルミ 畠山 薫 向川 純 柳川義勢 諸角 聖
東京都墨田区保健所・生活衛生課 笹井 勉

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