マイコプラズマは自己増殖可能な最小の微生物で生物学的には細菌に分類されるが、他の細菌と異なり細胞壁を欠くため多形態性を示し、ペニシリン、セフェム等の細胞壁合成阻害剤には感受性を示さない。マイコプラズマ肺炎は臨床的にクラミジア肺炎と類似しているため、治療においては両者に有効なテトラサイクリン系やマクロライド系の抗菌薬が一般に使用されているが、小児、特に新生児や乳児に対しては、下痢、大泉門の膨隆、骨の発育障害、黄歯などの副作用の観点からテトラサイクリン系薬剤より、エリスロマイシン、クラリスロマイシ、などのマクロライド系薬剤やクリンダマイシン(リンコマイシン系薬剤)を投与するのが一般的とされている。
これまで国内で分離されたMycoplasma pneumoniae に関するマクロライド薬剤に対する感受性成績が日本マイコプラズマ学会や日本感染症学会に報告されてきたが、少なくとも5年前まではマクロライド耐性M. pneumoniae の報告はなかった。しかし、この3〜4年前よりマクロライド耐性M. pneumoniae の分離が目立つようになってきた。
表1は北海道、高知県、神奈川県で分離されたマクロライド耐性M. pneumoniae の比率と耐性獲得に関与する23S rRNA遺伝子の変異パターンを示す。これらのマクロライド耐性M. pneumoniae は、14員環(エリスロマイシン、オレアンドマイシン、ロキシスロマイシン、クラリスロマイシン)、15員環(アジスロマイシン)、16員環(キタサマイシン、ジョサマイシン、ミデカマイシン)マクロライドのいずれにも耐性を示すので、治療においては注意を要する。
現在のところ、マクロライド耐性M. pneumoniae 感染症がとりわけ重症化しやすいという傾向は必ずしも認められておらず、通常の感受性菌による感染と臨床的に鑑別することは極めて難しい。したがってその治療はどうしても主治医の判断による経験的な治療にならざるを得ない。小児においては、14員環または15員環マクロライド剤の使用が主流である。ただ、マクロライド耐性M. pneumoniae 感染患者においてもクラリスロマイシンあるいはアジスロマイシンを投与することによって症状が回復したケースはあった。一方、成人においては基本的には投薬のしばりが無いので、ミノサイクリン、シプロフロキサシン、ガチフロキサシン、スパルフロキサシン、レボフロキサシンなどから状況に応じて適切な薬剤を選択すればよいと考えられる。
In vitro 試験で確かめた結果、23S rRNA遺伝子の2063または2064番目のA(アデニン)がG(グアニン)またはC(シトシン)に変るとマクロライド系に高い薬剤耐性を示す。また、2617のCがGに置換した株も1株分離されたが、in vitro 試験においても本置換は低〜中程度の耐性獲得に関与していることが明らかになった。
国立感染症研究所・細菌第二部 佐々木次雄 荒川宜親
札幌鉄道病院小児科 成田光生
神奈川県衛生研究所 岡崎則男
高知県衛生研究所 安岡富久