23価肺炎球菌ワクチンの感染防止効果および医療経済効果について

(Vol.25 p 44-44)

肺炎球菌は呼吸器感染症の主要な起炎菌であり、肺炎症例の約30%は、この菌によって引き起こされると考えられている1)。肺炎球菌感染症に対するワクチンとしては、この菌が持つ莢膜を利用した23価多糖体ワクチンおよび、7価コンジュゲートワクチンがあるが、わが国で接種可能なワクチンは前者のみである。23価肺炎球菌ワクチン接種により、多糖体に対する抗体価の上昇は見られるが2)、実際に感染防止効果があるかどうかという点に関しては、長い間、結論が得られていなかった。このワクチンの添付文書の効能・効果欄には、「肺炎球菌による感染症の予防」と記されている。Jackson らは、47,365人の65歳以上の高齢者に対して、3年にわたる後ろ向きコホート研究を行い、2003年にその結果を公表した3)。その結論は、23価肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌による菌血症(菌が血液から分離される状態)がおこる割合を 1,000人・年あたり、0.68(ワクチンを接種しなかった場合)から0.38(ワクチンを接種した場合)に44%減少させることができるが、肺炎に対する防止効果は見られないというものであった。1998年には、23価肺炎球菌ワクチンには肺炎防止効果が見られないという二重盲研試験の結果も発表されている4)。

また、医療経済効果に関する検討では、米国において、23価肺炎球菌ワクチンの接種料金$12という前提で、1接種あたり、$6.68から$ 10.91の経済効果があるとされている5)。なお、日本における23価肺炎球菌ワクチンの薬価は¥ 5,053となっているので、米国と同様に論じることはできない。

 文 献
1) Ruiz-Gonzalez, A et al., Am. J. Med. 106:385-390, 1999
2)福見ら、感染症学雑誌 58: 495-511, 1984
3) Jackson, LA et al., NEJM 348: 1747-1755, 2003
4) Örtqvist, Å et al., Lancet 351: 399-403, 1998
5) Sisk, JE et al., JAMA 278: 1333-1339, 1997

国立感染症研究所・細菌第一部
和田昭仁 倉 文明 前川純子 池辺忠義 常 彬 渡辺治雄

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る