はじめに
2001(平成13)年5月26日に開催された北海道小児科医会(南部春生会長)総会で、5年以内に北海道内から麻疹を無くしようとの決意が採択された。これを受けて「北海道麻疹ゼロ作戦」と銘打って具体的行動を開始した(本月報Vol.22, 279-280参照)。
行政機関との共同歩調
北海道小児科医会、札幌市小児科医会は、北海道保健福祉部、札幌市保健福祉局に対して、麻疹ワクチン接種率向上に向けての協力要請を行った。これを受けて北海道保健福祉部は2002(平成14)年3月5日全道 212市町村長に対し、行政の行う1歳半、3歳健診時での麻疹ワクチン接種推奨と接種歴問診を依頼する文書を送付した。この調査は各年度半期ずつ行われ、2006(平成18)年度まで続けられる。このたび2002年(平成14年度)の成績がまとめられた(表1)。
3歳健診時には北海道、札幌市それぞれ93.6%、96.0%と大略満足すべき接種率であり、いかにこの接種率を1歳台にシフトするかが課題となった。
札幌市保健福祉局は2003(平成15)年6月1日から、行政の行う10カ月健診を受診した乳児の保護者に「はしかワクチンシール」を手渡し、自宅のカレンダーの児の誕生日にこのシールを貼付するように要請した。
広報活動
「はしかゼロをめざして−ワクチン接種をすすめよう−」と題する講演会を札幌市で開催して、日本小児科医会の作成したポスター 2,000枚、新たに作成したパンフレット20,000枚を配布した。この講演会は年2回ずつ札幌市で開催され、2003年5月29日で第4回となった。北海道小児科医会、札幌市小児科医会、第一製薬(株)の共催で北海道医師会、札幌市医師会の後援である。対象者は医師、看護師、保健師、保育園・幼稚園関係者である。2003年11月13日からやはり年2回開催をめざして「ワクチン接種をすすめよう−子ども達に健康な未来を−」と題した講演会を始めた。共催、後援、対象者は同一である。
標準的な接種年齢の変更
麻疹ワクチンは予防接種法に定められた一類疾病に対する定期接種で、生後12〜90月を対象年齢としている。そしてこれまで生後12〜24月としていた標準的な接種年齢を2003年11月に生後12〜15月へと変更した(厚生労働省健康局長通知「予防接種実施要領」)。これは生後12月を過ぎたらできるだけ早く集中して接種させようとするものであり、期間限定で行われるポリオ接種時期にも麻疹ワクチンを優先接種させようとするものである。接種期間がせばまったとの誤解を招かぬように、また従来年1回、2回などと接種機会の少ない市町村への指導が肝要である。
全国の取り組み
福岡で開催された日本小児科学会会期中の2003年4月25日、「はしか対策全国小児科医連絡協議会」が開催された。これは全国各地で行われているはしか対策の実態調査と、都道府県レベルにおけるkey personづくりを目指そうというものである。呼びかけは沖縄の県立中部病院の安次嶺馨先生と知念小児科の知念正雄先生である。この二人を含む七人を世話人として協議会が発足して年2回程度会合を持つことになった。第2回目の会合は2003年8月31日、仙台で開かれた日本外来小児科学会の会期中に開催され、宮城県小児科医会、仙台小児科医会と合同で「はしかゼロプロジェクト アピール2003 in 仙台」を宣言した。第3回は2004年4月に岡山で日本小児科学会会期中に開催予定である。この組織がはしか根絶のうねりの中心となって、わが国から麻疹患者ゼロとなる日の到来を期待している。
なお、現在都道府県単位ではしかゼロに向けてのキャンペーンを実施しているのは、北海道、大阪府、石川県、沖縄県、宮崎県、神奈川県、高知県の7道府県である。
おわりに
2003年に金沢と鹿児島で大学生の間に麻疹の流行が発生したとの報告があった。さらに最近全国各地で小中高の生徒、学生の発症が目立つとの報告がみられている。この現象は小児期早期におけるprimary vaccinationの徹底でみられた約10年前の米国の状況に酷似している。米国はその際に小学校入学時にさらにsecond dose vaccinationを実施して、国内発生の麻疹のeliminationに成功した。わが国でもsecond dose vaccinationを考慮すべき時期が到来したものと考える。
市立札幌病院 富樫武弘