2003年の麻疹の流行−鹿児島県

(Vol.25 p 69-70)

概要:鹿児島県における感染症法施行後の麻疹の流行は、1回目が2001年に起こり、患者報告数が定点当たり14.55人(累積患者数873人)であった。今回(2003年)の流行は2回目である。2003年は第9週以降鹿児島市保健所および志布志保健所管内を中心に、小児科定点からの麻疹の患者報告数が急増し、第12週には定点当たり0.52人となり、流行発生注意報の基準を上回った。中でも、鹿児島市保健所管内では、同12週に定点当たり1.50人となり、流行発生警報の基準を超えた。その後も患者発生は衰えず、第19週をピーク(定点当たり0.71人)に減少が始まり、第28週になって流行は終息した。最終的に2003年の患者報告数は定点当たり7.69人(累積患者数454人)と、過去5年間で2番目に多かった。患者報告数が多かったのは、鹿児島市保健所(定点当たり19.07人)、西之表保健所(定点当たり17.00人)、鹿屋保健所(定点当たり12.80人)、志布志保健所(定点当たり11.75人)で、麻疹の流行は必ずしも隣接する地域で起きておらず、流行地がまだらであったことが特徴的であった。患者の年齢は、1歳が最も多く(17%)、次いで12カ月未満(14%)、10〜14歳(13%)、2歳(12%)の順で、2歳以下が約半数を占めていたが、10〜14歳にも多いことが特徴的であった。

一方、成人麻疹は、基幹定点からの患者報告数は増加の兆しをみせなかった。ところが,2003年7月上旬にA大学(鹿児島市)の教養課程の1、2年の学生を中心に約60人が麻疹に罹患しているとの情報を得た。A大学医学部附属病院(現、A大学病院)インフェクションコントロールチームによる医学部(医学科、保健学科)、歯学部学生の調査の結果、5月28日から3人の医・歯学部学生が麻疹を発症し、6月6日から11人の二次発症者がいることが判明した。しかも、麻疹の伝播は部活動を中心に起きていた。同大学では、直ちに接触者に関する聞き取り調査、接触者の感受性検査、全学生の連日の健康調査、麻疹の既往調査を開始し、接触者のうち抗体陰性者には接触後72時間以内ならワクチン接種、それ以降なら自宅待機措置を指導した。同大学附属病院などの医療施設に学生からの麻疹感染が拡がるのを防ぐため、医療施設での臨床実習や一部の講義を中止するとともに、医・歯学部の全学生に対する麻疹、風疹、水痘、ムンプスの感受性検査を実施した(表1)。1,405人のうち、麻疹のHI抗体価が8倍未満の学生353人(25%)に麻疹ワクチンを接種した。

このような緊急対策が功を奏し、三次発症者は3人にとどまり、この3人はいずれも自宅待機中に発症した。しかも発症者に重症例はみられなかった。二次・三次発症者14人のうち7人はワクチンの接種歴があったことから、secondary vaccine failureが疑われた。

麻疹ウイルス分離:小児科定点から提供された患児2人の鼻汁について、B95a細胞を用いてウイルス分離を行い、その培養上清を用いてRT-PCRによりN遺伝子3'末端領域を増幅した結果、2検体とも培養およびRT-PCR陽性であった。さらに、その2株を国立感染症研究所に依頼し、 385塩基(position;1302-1686)について系統解析を行った結果、2株ともH1型に分類され、それらの塩基配列は相同であった。なお、大学での集団発生患者の咽頭ぬぐい液から分離された3株については、現在遺伝子解析中である。

考察:鹿児島県下の麻疹ワクチンの平均接種率は年々増加の傾向にはあるが、依然として74%台にとどまっている。麻疹に対する有効な治療法は存在しないことから、ワクチンによる予防接種が麻疹感受性者を減少させ、流行を阻止する上で有効であると考えられ、ワクチン接種率を高めることは急務であるといえる。また、自然感染患者との接触によるブースター効果が期待し難い今日の環境下では、secondary vaccine failureという問題も生じているので、麻疹根絶のためにワクチンの複数回接種の必要性について検討する必要がある。

併せて、今回のような成人麻疹の発生には、感染症発生動向調査による定点観測では,動向を把握し難い一面もあることから、全数把握にするなど監視システムについても再検討する必要がある。今後も麻疹の地域的あるいは全国的な流行が繰り返されることが危惧されることから、麻疹ワクチン接種に対するさらなる啓発と効果的な施策が早急に望まれる。

なお、本大学では、医学部・歯学部学生に対して、麻疹、風疹、水痘、ムンプスの抗体が陽性でない場合はワクチン接種を勧奨し、感染症を予防するための対策を講じている。

鹿児島県環境保健センター
新川奈緒美 石谷完二 中山浩一郎 本田俊郎 吉國謙一郎 藏元 強 川元孝久
鹿児島市立病院
奥 章三 保科孝之 川上 清
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
吉永正夫 真砂州宏 西 順一郎 小田 紘

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