2002年度麻疹血清疫学調査ならびにワクチン接種率調査−2002年度感染症流行予測調査より

(Vol.25 p 71-73)

はじめに

感染症流行予測調査は、1962年に伝染病流行予測調査事業として予防接種事業の効果的な運用と長期的視野に立った総合的な疾病の流行を予測することを目的に開始された。実施の主体は厚生労働省健康局結核感染症課であり、地方衛生研究所と国立感染症研究所が連携し、血清疫学調査(感受性調査)、病原体検索(感染源調査)を全国規模で行っている。

麻疹の感受性調査は1978年に開始され、以後1979、1980、1982、1984、1989〜1994(毎年)、1996、1997、2000、2001、2002年度に調査が実施され、2003年現在も調査継続中である。

抗体測定法は1996年に、赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition: HI)法からゼラチン粒子凝集(particle agglutination: PA)法に変更になり、2002年度はPA法になってから5回目の調査である。

本報告は、結果解析可能な最新年度である2002年度調査(北海道、栃木県、千葉県、新潟県、長野県、大阪府、鳥取県、香川県、高知県、沖縄県の10道府県で調査)について報告する。

なお、詳細は2003年12月発行の平成14年度感染症流行予測調査報告書(厚生労働省健康局結核感染症課、国立感染症研究所感染症情報センター)を参照のこと。

年齢別麻疹ワクチン、麻疹おたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチン接種率

予防接種歴は麻疹を対象疾病とする10県中9県で調査されていた。接種歴不明1,048名を除いた1,293名の麻疹ワクチン(MMRワクチンを含む)接種率は86.2%であり、2001年の80.7%、2000年の75.2%、1997年の69.9%に比してそれぞれ約5%、約10%、約15%上昇していた。年齢別にみると、0歳 4.2%、1歳84.2%、2〜3歳94.5%、4〜6歳92.8%となり、10〜14歳の97.9%が最大であった。昨年の1歳46.7%、2〜3歳80.6%、4〜6歳91.9%と比較すると大幅に上昇していた。

次に、麻疹が調査対象に入っている10県のみならず、感染症流行予測調査を実施しているすべての県の結果を対象に含めると、接種歴不明あるいは未記入の9,872名を除く5,192名について麻疹ワクチンおよびMMRワクチン接種歴が調査されていた。その結果、1歳児のワクチン接種率は77.7%、2歳児では95.7%であり、麻疹が調査対象である10県の調査より1歳児の接種率は6.5%低かった。また、1989〜1993年の4年間、わが国においては定期麻疹ワクチン接種時にMMRワクチンを選択しても良いことになったが、MMRを選択していたのは、約20%であった。この年代の接種率はその前後の年齢層よりワクチン接種率が低く、麻疹ワクチンもMMRワクチンも接種していない群が10%以上存在した(図1)。

年齢別麻疹抗体保有率(図2)

2002年度は10県、合計2,341名で麻疹PA抗体が測定された。1:16以上のPA抗体保有率は、1歳が73.2%、2歳以降は90%以上になり、その後上下しつつ35歳以上になるとほぼ100%の人が抗体を保有していた。2001年度調査では1歳の抗体保有率が43.9%であり、この年齢層の抗体保有率が上昇していた。10〜20歳代の抗体保有率は97.3%であった。乳児の抗体保有状況は今後ワクチン世代の母親から生まれた小児の割合が増加してくるため移行抗体の消失時期を考える上で重要であるが、0〜5カ月で66.7%、6〜11カ月で13.7%であった。1: 512以上の高い抗体価を保有する率を年齢別に見ると、5歳群と10〜29歳群で落ち込みが認められた。

1:16以上の抗体保有者の幾何平均抗体価は全体で29.5(714.8)であった。接種者と非接種者にわけると、それぞれ29.2(584.2)と29.7(845.9)であり、大きな差は認められなかった。

次に、2002年10月1日現在の推計人口(2000年の国勢調査から推計)と年齢別抗体陰性者率から年齢別麻疹感受性人口を推計し図3に示した。0歳児で約85万人、1歳児で約30万人、成人麻疹で問題になっている20代においては約30万人が麻疹感受性者であることが推計された。全年齢群で見ると2002年度わが国における麻疹感受性者数は300万人弱であると推計された。

まとめ

2002年の特徴は、1歳群の抗体保有率ならびにワクチン接種率が急激に上昇したことである。流行を経験した自治体においては、麻疹ワクチンの接種勧奨に積極的な取り組みが認められ、近年の全国的な麻疹ワクチンキャンペーンが功を奏した結果を反映しているのかもしれない。さらにワクチン接種率が上昇し、1歳群の接種率が95%以上になることが望まれる。しかし一方で、0歳群の抗体の消失時期は早く、ワクチン世代の母親から生まれた小児が増加してくる今後は、特に注意深く経過観察していく必要があると思われる。また、定期接種対象年齢群に抗体陰性者(感受性者)が認められること、10〜20代で抗体価の落ち込みが認められること、等は問題である。

予防接種の効果に関しては、非接種者、すなわち自然感染者と平均抗体価において大きな差はなく、予防接種の有効性を示している。ただし、10〜20歳群で1: 256以上の抗体保有率が他の年齢群に比して低下していることは注目すべき点である。PA抗体はHI抗体あるいは中和抗体より長期間高く維持される傾向があると言われており、長期の感染防御効果、発症阻止効果に関しては今後さらに検討を進める必要がある。

現在のわが国における麻疹対策は、1歳群のワクチン接種率をさらに向上させ、流行そのものを抑制することであるが、今年の調査結果から得られた0歳群の抗体消失の時期、10〜29歳群の抗体価の推移には特に注意深い観察が必要である。2回接種導入の検討を含めた今後の予防接種政策に反映させていく必要があると考える。

本研究は厚生労働省結核感染症課および都道府県衛生部、地方衛生研究所との共同による。また、集計、作図は国立感染症研究所感染症情報センター第三室早川丘芳氏、北本理恵氏の多大な協力によるものである。

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子 新井 智 大日康史 岡部信彦
感染症流行予測調査事業麻疹感受性調査担当
北海道、栃木県、千葉県、新潟県、長野県、大阪府、鳥取県、香川県、高知県、沖縄県

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